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逃げる靴の正体
「あ、サーシャ! 今のって……」
「うん! 無くなった私の靴だ!」
サーシャの茶色い皮靴は、スキップするかのように跳ねながら、私達から遠ざかって行く。彼女は慌てて立ち上がってそれを追いかけようとした。
「靴さん、どこに行くの! 待ってよ~!」
「あ、サーシャ! 置いてかないでください!」
私達が逃げる靴を追いかけ山の中腹にある小さな丘にたどり着くと、そこには異様な光景が広がっていた。
「うわぁ……すごいよこれ」
サーシャが声をあげるのも無理はない。丘の上いっぱいに靴があったのだ。
色や形もバラバラで、対になっているわけでもなく、無造作に大量の靴が置かれている。
「あ、私の靴~! ……え、やだ、キャー! 可愛いぃぃぃぃ!」
サーシャは近くにあった自分の靴を見つけ手に取ると、なぜか急に可愛いと言い出してと大喜びしている。
「可愛いって、何がですか?」
「シェル、これ見て! スライム! 靴の中にスライムがいるの!」
そう言って中が私にも見えるように靴を置くと、そこにはピンク色の柔らかそうな物体がすっぽりと納まっていた。
サーシャの声に反応してピンク色の物体は少し動いたかと思うと、つぶらな黒い瞳でこちらを見つめている。
「もしかして他の靴も……? すごい! ねぇ、シェル! ここにある靴、全部スライムが中に入ってるよ!」
「えぇ……全部スライムが?」
「これは、スライム目モチスラ科のミニモチベニザクラスライムだね。熱に弱いのにどうしてこんな暑いとこにいるんだろう?」
「そうなんですか?」
「うん。この種族は涼しい森で集団生活してる子が多いのに……」
サーシャは首をかしげた。
――今日、ギルドで聞いた二つの事件。ヒートマウンテンと言われるほど熱い山。そして靴の中のスライム。
……なるほど、そういうことか。
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