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靴泥棒の正体
「わかりましたよ。靴泥棒の正体はスライムだったんですね!」
私の発言にサーシャは目を丸くした。
「えぇっ? どうしてスライムが……?」
「このスライム達は元々、別の土地で生活していたのでしょう」
「別の土地?」
「今日、ギルドのオヤジさんが森の話をしてました。『弱いスライムくらいしか生息してない穏やかな森だったのに、急に巨大な蛇の魔物がたくさん出現するようになった』と」
「じゃ、この子たちはその森から……?」
「えぇ。たぶんそうだと思います」
「それがどうしてここに?」
「おそらく、新しく来た蛇の魔物に襲われて逃げ出したんでしょう。それで新しい住処を求めて、外敵の少ないこの山にたどり着いた」
私の見解にサーシャは頷いた。
「そうか~。確かにここに来るまでの間、特に魔物にも出会わなかったし、熱いのさえ我慢できれば暮らせそうだよね」
「そう、問題はそこです。この山の地面はスライムが直接触れるには熱い温度なんですよね?」
「うん、そうだと思うよ」
「そこで、熱から身を守る為に靴を拝借してその中に住むようになったんだと思います」
私の見解に疑問があったのか、彼女は靴の中から顔を出すスライムを見て不思議そうに呟いた。
「――なんで靴なんだろう。コップとかじゃダメだったのかな?」
「たまたま靴工房に靴がたくさん置かれているのを見つけた、というのもあるでしょうが、靴の形や素材が手ごろだったんじゃないでしょうかね。それなら中に入ったまま移動ができるみたいですし」
ついさっきも、スライムが器用に靴の中に入ったまま跳ねて移動したのをこの目で見たばかりだ。まずそういうことで間違いないだろう。
「そっかぁ。確かにこの種族は狭いところが大好きだもんねぇ」
サーシャはスライムを軽く指先で撫でながら微笑んだ。スライムはキュイキュイと甘えるような声を出している。
「さて、これはギルドにどう報告しましょうかね……」
「もしかして報告したらこのスライムさん達、靴泥棒として捕まっちゃうの?」
サーシャは心配そうな目で私を見つめた。
「ふふっ、まさか……」
大量のスライムが拘束されて連行されるのを想像して少し笑ってしまったが、たぶんそういうことは無いだろう。
この国の王、ホワイティ殿下は動物好きの優しい方だと聞く。きっと悪いようにはしないに違いない。
「近日中に森に討伐隊が派遣されるそうですから、きっと蛇の魔物さえ駆除されればスライム達を元の森に返すこともできるかと」
「そっかぁ……それなら安心だね」
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