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「おまえ、酔ってんのか? 俺はまだ結婚しないぞ」
ルームシェアしているマンションは、先に結婚したほうが所有権を手に入れる、というルールはあるものの、お互い結婚予定のけの字もない状態だ。
「でも、僕よりレキのほうが早いと思うよ」
「だったらその時に探せよ」
「ふうん、そう……」
よほど見つけた物件を気に入ってるのか、ミハエルはがっかりした声を出す。
「ちょっと貸せ」
俺はミハエルの携帯を取り上げ、間取り図を『お気に入りから削除』した。
「え、なにするの!」
焦るミハエルがおかしくて、つい吹き出す。
「レキ、ひどい」
じと目で俺を見上げるミハエルも、意地悪する俺も。
きっとまだ酔ってるんだろう。
「アイス食べたくないか、ミハエル」
「露骨に話題変えた」
「おまえの好きなストロベリーの買ってやるよ。食べたいだろ」
「食べたいけど……コンビニ行くなら卵も買って」
「いくらでも」
「そんないらないし」
両親とミハエルとファルシーゼ。それぞれと過ごす時間があとどれくらい残されているか。
心にとめておけば、他愛もない、そしてくだらなく思える時間も、愛しさを増すのかもしれないな。
月明かりに消えていく、この時間さえも。
【了】
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