新年度

182/185
1725人が本棚に入れています
本棚に追加
/215ページ
それから十分ほど経っただろうか? 前線組の数にものを言わせた猛攻により残っていた一段目のHPバーを消滅させると、ヴラドが絶叫を上げて丸太のような尻尾で周囲を薙ぎ払う。 咆哮が収まると再び彼の躰を薄いオーラが覆い、予想通り一時的に強化されたステータスで近くに居た手頃な前線組のプレイヤーを蹂躙にかかった。 「リオノールさん、皆さん、出番ですよ」 「は、はい!」 こうなれば後は俺達の仕事だ。破邪の聖針を握り締めたリオノールを筆頭に、パーティーメンバーの応という返事が響き、前衛職達が暴れ回るヴラドの元へ疾走する。 俺とムヒで手分けしてメンバー達にバフをかけ、ウナと共に遠距離から前線組の連中から憎悪値を少しでも削ぎ落とすべく攻撃魔法をちまちまと加える。 そこでオーラを解除しようとするリオノール達に気付いたのか、ヴラドの竜眼が前衛の皆を捉え、煩わしそうに尻尾を払う。 一見乱雑に見える攻撃だが、オーラによって強化されたステータスから繰り出されれば致命になり得る。 全員が無理に受け止めようとせず、散開して各々で攻撃を回避していた。 「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」 グレイヴが深く息を吸い込み、喉元に薄い光を纏わせると、吼えた。 彼の開いた口元から波紋状のライトエフェクトが広がり、ヴラドが緩慢な動作で彼に顔を向ける。挑発系統のスキル、≪咆哮(ハウル)≫だ。 少しでも自分の方に注意を向けさせ、リオノールが動きやすいようにするつもりらしく、優等生のグレイヴらしい、前衛として模範的な行動だ。
/215ページ

最初のコメントを投稿しよう!