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「虹妹、もう時間だぞ」
「はい!」
バドミントン部の顧問の教師に声を掛けられ、彩楓が立ち上がる。
姉と揃いのユニフォームを身に纏い、揃いのシューズの紐を確かめ、揃いのラケットを手に取ってグリップの握り心地を確かめる。
全国二位経験者の姉と前年度全中優勝の妹という、都大会の緒戦ながら全国の中学生バドミントンプレイヤーの中での最強を決める戦いとまで目される試合。
ドラマチックなカードに周囲が浮き足立つ中、当の彩楓は弾む足取りで試合会場のコートへと向かっていた。
舞台は違えど彩楓にとって彩葉とバドミントンで競うことは日常であり、何にも代え難い楽しみだった。
それは戦いの舞台が練習の紅白戦でも大会の試合でも変わらず、今も目前に迫った彩葉と競い合う時間が待ち遠しくて仕方がなかった。
「お、彩楓選手!」
「はい?」
コートへと向かい体育館の通路を歩いていると、彩楓に一人の中年男性が声を掛ける。
よれたスーツを見に纏い、首には大会関係者を示す証明証を下げている男性は肩にカメラを下げていて、それを見て彩楓は「そういえば今日は記者もいるんだった」とぼんやりと考える。
全中優勝の最有力候補二人の激突ともなれば周囲からの注目度というものも当然高くなる。
あくまで都大会の緒戦だがこうして記者が入るとは彩楓も事前に聞かされていた。
「えっと、試合前なのでインタビューとかは……」
「いえいえ! 私、虹姉妹の大ファンでして! 一言応援の言葉だけ伝えたいだけなので!」
「はぁ……ありがとうございます」
「昨年最有力の優勝候補だった姉を下して全中優勝の妹と今年こそはと優勝を狙う姉! しかも二人とも美人! ………この試合、あなた達が思ってる以上に凄い注目度なんですよ」
「あ、あの……?」
「三年生でもう後がない姉と、そんな姉の前に立ちはだかる妹。もし姉が去年の雪辱を果たして全中優勝したら、ドラマチックだと思いません?」
「…………」
「お姉さんもここで初めて優勝できたらさぞ嬉しいだろうなぁ……おっと、長々と引き留めちゃいましたね、試合頑張ってください!」
言い残すと、記者は足早に去っていく。
残された彩楓はしばらくその場を動けず、試合開始前のアナウンスが流れたところで我に帰り、急ぎ足で割り当てられたコートへと足を向けた。
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