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『29ー29』
主審のコールを聞き流しながら、荒い呼吸を整える。
彩楓と彩葉による試合は現在三ゲーム目。
両者一ゲームずつ獲得し、いよいよ最終セットの最後の最後。
どちらかが次の攻防を制した時点で勝者が決定するという場面でサーブ権を獲得したのは彩楓だった。
「ーーーーーー」
息を整え、彩楓がサーブを打つ。
下から打ち上げたシャトルはアーチを描き、彩葉の頭上を通り越してコートのギリギリに落ちようとするが、その途中で彩葉がシャトルを打ち返す。
シャトルはほぼ直線の軌道を描き、彩楓サイドのネット際に落とされるが、彩楓は危なげなくそれを拾い、逆に彩葉のコートのネット際かつコート際に落とす。
「ーーーッ!」
が、彩葉もヘアピンショットに追いつき、負けじと対角線上にヘアピンショットを打ち込む。
彩楓はそれを大きく打ち上げ、コートの後ろ際に落とそうとするが、彩葉も素早く後ろに戻り、若干体勢を崩しつつもクリアで返す。
無理な体勢で打ったクリアは彩葉に狙う余裕を与えず、シャトルが飛んでいった先には準備万端の彩楓が待ち構えていた。
「ーーーーッ!」
気迫の声と共に鋭いスマッシュが打ち出され、彩楓にとって目一杯高い打点から打ち下ろされたシャトルは彩葉のコートの中央辺りに突き刺さろうとする。
「アァッ!」
これが決勝点となるかと会場が息を呑んだ瞬間、寸でのところで動ける程度に体勢を立て直した彩葉が半ば身体を投げ出すような体勢になりつつもどうにかスマッシュを拾い、再び打ち上げる。
無理矢理打ち返したことで返し方を選べなかったとはいえ、今シャトルを打ち上げてしまうのはあまりにも悪手。
放物線を描き、待ち構える彩楓の頭上にシャトルが飛んでいった瞬間彩葉も含め会場全体が彩楓の勝利を確信しーーーー
『お姉さんもここで初めて優勝できたらーーー』
「ぐっ………!」
次の瞬間、彩楓の放ったスマッシュはネットに突き刺さり、その威力にネットが大きく揺れた。
『トゥ、29ー30……! ゲーム!』
ネットに囚われたシャトルがコートに落ち、一拍遅れて主審がコールする。
この瞬間、この試合の勝者が彩葉に決定した。
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