姉妹喧嘩

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「この後」に控えているイベントを思うと楽しんでくれている彩楓には申し訳ない気持ちが沸々と湧いてくる。 どうにかして傷を浅く済ませたい所ではあるが、決して彼女に取って無傷では終わらないだろう。 「雷翔君」 「……っと、悪い」 そんなことを考えていたらどうやら表情が固くなりすぎていたようで、心配そうにこちらの顔を覗き込む美月の声にはっと現実に引き戻される。 少しでもお互いが動けば鼻先が触れ合いそうな至近距離にある美月の整った貌に今度は別の意味で緊張しそうになりつつも、やんわりと彼女の頭を一度撫でて「大丈夫」と笑いかける。 いくら心配してもこれから起こることは最早俺達の手を離れたのだ。なるようにしかならないし、今俺達に出来ることはベターな方に転がってくれることを祈りつつ束の間の楽しい時間を楽しむことだけなのだろう。 「あ痛っ」 それと美月の頭越しに放物線を描いて飛来したシャトルのコルク部分が頭頂部に直撃する衝撃を甘んじて受け入れることくらいなのだろう。 「雷翔さん、次に彩楓さんとお願いしますね? お二人の場合はミニゲームですから」 「はぁい……」 「彩楓さんは本気でいいので。雷翔さんは頑張って三点は獲ってくださいね」 「……………はぁい」 本気の彩楓から三点奪取というと、最低限都内上位のプレイヤーという奥田女史と同等の条件になるし、なんなら俺達の場合ミニゲームということ自体今初めて聞いたのだが、今のは俺が悪いので百合さんに逆らうという選択肢は無い。 断頭台へと続く階段を歩く囚人の気持ちでラケットを手に取り、百合さんとのラリーですっかりアップを済ませた彩楓が待ち受けるコートへと進むのだった。
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