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 はじめて入って見る男の子の部屋、いや、他の人の部屋はかつての私の部屋とは全く違ってびっくりした。 ベット以外には何もなかった自分の部屋と比べて、彼の部屋はあれこれで満たされていて、失礼だと思いながらもジロジロト部屋の中を見回し続けた。 翔をベットに寝かして本棚を眺める私をみて彼はいった。 「読みたいものがあれば読んでもいいよ。」 「あ、いや、そうじゃなくて。」 驚いて本棚から離れると、翔はあれをみてあはは、と笑ったが力のない声だったので心配になった。 「翔、疲れたら寝ててね。ちゃんと眠れなかったんでしょう?」 「家まで誘っておいて寝るのも悪いじゃないか。」 「いいの、あなたの身体の方が心配。」 「じゃ、寝る前に何か話そうかな。お前もベットに座って。」 すぐ寝かせておくべきだったんだろうけれど、彼ともっと話したいという利己的な気持ちが勝った。 うん、と頷いて彼の頭のそばに腰掛けると、彼は私のほうへ顔を向けた。 「なんか、他人の部屋というのは不思議だね。」 そう感想をつぶやくと、翔は横目で私を見上げながら言った。 「菫の部屋はどんな感じか、気になるな。」 私の部屋か。追い出された家と、センターにある自分の部屋どっちを言っているんだろう。 きっと悪意もって聞いたわけではないだろうけれど、その言葉に私は散々悩んだ挙句答えるのを諦めた。 他に何か話題を逸らせるようなものはないかなーともう一度彼の部屋を見回した。幸い、すぐ他の話題が見つかった。 「翔、あれってバンドのポスター?」 壁に貼られているポスターを指で指しながら聞いた。 「うん。一番好きなバンド。コンサートも何度か行ってた。」 「コンサートね…」 翔もいつかそんなコンサートをする日が来るのだろうか。もしそんな日が来たら、私もそのそばで一緒に彼と歌えたらいいな。 そんな勝手な想像を広げてたら、翔と目が合ってしまった。彼は眠いのか、とろとろとしていた。 「もう寝てて、翔。無理しないで。」 手のひらで彼の目をそっと閉じてやりながらいった。彼は、じゃ一時間後に起こしてくれ、と言い残しすぐすやすや眠った。 まるで天使みたいな寝顔をした彼の髪を優しく撫でて、音を出さないようにそっとドアを開け部屋を出た。 翔が深く眠ってから部屋を出た私は、キッチンを探して家のあちこちを歩き回った。そうするうちに、リビングにかかっいる家族写真をみて足を止めた。 両親の間で不自然に笑っている翔の顔は、なぜか私が知っている彼と同じ人物とは思えなかった。まるで彼とそっくりの、他の誰かが写っているかのような錯覚さえした。 そんな違和感を後にしてキッチンに入った私は、誰に言うのかもわからずにお邪魔します、といって冷蔵庫を開けた。 さすが、というべきだろうか。いつもお酒ばっかりだった自分の家とは違い、彼の家の冷蔵庫には新鮮な食材で見たれていた。 何を作るか悩んだけど、やっぱり一番上手く作れるのがいいな、と思い材料を取り出して手入れしはじめた。 お昼の時間までは後僅か。少し急いだほうがいいな。エプロンを掛けて、卵を割りボウルに入れ混ぜた。 その瞬間、後ろから人気がして振り向いた。翔ったら、疲れたくせにもう起きてしまったのかな。卵を混ぜながら、私は笑顔で言った。 「翔、もう起きた?お昼、すぐ作るから…」 振り返ると、目に入った人は翔ではなく、見知らぬおばさんの姿だった。手を止めて凍えた私に、おばさんは続けてもいい、という意味で手振りをした。 「あら、家に新妻が来たね。翔の彼女?」 「い、いいいいいえ!」 慌てたせいで、声が裏返って飛び出した。 「た、ただの友達です…その、センターで会った。あ、春菜 菫と申します。その、勝手にすみません。」 「いいのいいの。でも彼女じゃないのか。翔は何してるの?」 なぜかおばさんは少し残念そうな顔をした。 「た、体調壊して部屋で眠ってます。その、お昼ご飯作ろうとして…」 「そうなんだ。おばさんが邪魔しちゃってごめんね。」 おばさんは私が混ぜていたボウルを興味深い目で私に聞いた。 「何作るつもりなの?おばさんも手伝ってあげようか?」 「あ、いいえ、簡単なものなんで。オムライスを作るつもりです。」 幼いころ、私が一番好きだった母の料理だった。両親の喧嘩がはじまるころには食卓に上がることはなくなって、私が直接作ることになった料理。家の冷蔵庫がお酒でいっぱいになってからはそれすらしなくなったけれど。 「じゃ、せっかくだからおばさんも食べていってもいいかな?」 おばさんは食卓に座り、私に言った。急な頼みに慌てながらも、私は落ち着いてボウルに卵をもっと割って入れた。 丁寧にオムライスを作り、食卓の上に乗せると、翔のおばさんは一口オムライスを味わった。エプロンの前に手をそろえた私は、固唾を呑みながら評価を待った。 おばさんが再び口を開けた瞬間、自然に目を瞑って身体を縮ませた。 「おいしいね。料理、誰から教われたの?」 「は、はい?」 目を開けておばさんを見つめるとおばさんは翔とそっくりの笑顔で言った。 「菫、だったよね?翔ったら、センターいくのを嫌っていたから心配してたけれど、いい友達ができたね。」 「あ、ありがとうございます…」 「どういたしまして。」 おばさんはオムライスを食べては席から立ち上がった。 「とても優しい味ね。菫ちゃん。お嫁に来る?」 「えっ、えええっ!?」 おばさんは私の反応が可愛くて仕方がないような表情で笑った。 「冗談よ。もっと話してみたかったけれど、おばさんは仕事があってね。ゆっくりしていってね。」 「はい…ありがとうございます。」 「翔のことよろしくね。あ、今日おばさんと会ったのは翔には内緒ね?」 おばさんは私に手を振って家を出た。一気に力が身体から抜け出した。 おばさんを見送って、私は翔の部屋に向かった。
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