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   翔の美しいギターの音が鳴り響いた。人々の視線が一斉にこっちに降り注がれる。負担感で身が震えてきた。ミスしたらどうしよう。 ミスしたら、彼は再び傷ついて音楽をやめるかも知れない。そんなことを思うと、私はじっとしていられなかった。頭の中が、真っ白になった。 もうすぐで私の出番なのに、どうしよう、という思いで翔を見つめた。彼も私みたいに不安に飲み込まれそうになってるんじゃ… と思ったが、私の目に入ってきた彼の顔は、とても楽しそうだった。目が合うと、彼は私の歌が楽しみで仕方がない、といわんばかりの笑顔で演奏していた。 歌わないと、彼を痛いその傷から救えるのは、私だけ。迷いは決心となり、狂いだした心臓をぎゅっと握ってくれた。胸に手をついて、息を飲み込んで歌いだした。 その瞬間、私は彼の声となり、人々に彼の意思を伝えた。彼の思いは人々にちゃんと伝わり、みんな私と翔の歌に耳を傾けてくれた。彼と、私と、皆で通じ合えた。 一曲歌い終えると、熱き拍手の音が聞こえてきた。大勢の人が私と彼をめぐって声援を送っていた。 翔を見ると、彼は信じられないような顔で笑った。よかった。ちゃんと彼の声になれて。その心が、その叫びがちゃんと伝わって。嬉しさのあまりに、私の目はいつの間にか潤っていた。 「さあ、菫、これ受け取って。」 ギターケースの中に積ったお金を、彼は私に分けてくれた。 「えっ、いいの。」 「受け取ってくれよ。一緒に頑張ったんだろう?」 どうしようかな、と迷っていた私は、いいアイディアを思いついた。 「それじゃ、このお金は貯金しておくことにしましょう。」 「貯金?」 彼は頭を傾げながらいった。 「うん。貯金しておいて、後で一緒に使うの。」 「たとえば?」 「ううん…おしゃれなところで食事をしたり?」 翔は指を顎に乗せ、少し唸った。そしていいアイディアが浮かんだか、手を打った。 「なあ、旅行に行かないか?」 「旅行?」 自分とは全く縁のない単語が飛び出してきた。旅行なんて、生まれて一度もやったことがない。 「いいね。どこに行くつもり?」 「さあ、それは後で考えよう。」 いつか、彼と一緒に旅に出る想像をすると、何故か胸が高鳴った。いつか、彼と遠い、遠いところに行って、人生をやり直すんだ。そんな希望の一歩を、今日無事に築くことができた。
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