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朝早く起きて朝寝坊をしてる陽菜を揺らして起こし、私は速やかに支度を済ました。 「陽菜、陽菜、起きて」 「うう…週末でしょ?どうしたの…」 陽菜を急かすと彼女はゆっくり起き、目を擦って二階のベッドから降りて私の顔をぼうっと見つめた。 「…どうしたの?」 「あの…菫ちゃん、もしかしてそんな格好であの男の子に会いに行くつもり?」 「ダメ…?」 不安な気持ちで震える声でそう聞くと彼女は私の肩を握り体を前後に揺らした。 「ダメに決まってるんでしょ!化粧をそんなに暑くしちゃどうすんのよ!ピエロでもあるまいし!」 「えっ、ええ…」 「今すぐ化粧落としてきなさい!」 訳もわからず陽菜に押されてトイレに入った私は結局洗顔をして化粧を落とした。 「もう、菫ったら!約束時間、あとどれくらい?」 「さ、30分ぐらい…?」 時間は大丈夫か、と彼女は私を椅子に座らせて化粧をしてくれた。 「はい、できました。」 鏡をみても化粧をしたかしなかったかよく分からないほどの薄化粧だった。 「本当にこれだけでいいの?」 「菫は可愛いからこれぐらいでいいの。」 私が冴えない顔をすると彼女は私の肩を軽く叩いた。 「下手に飾るより、ありのままのあんたの姿を見せなさい。」 ありのままの私の姿か、率直に言って自信がなかった。 陽菜はいつも私の顔が可愛いって羨ましがったけれど、自分ではよく分からなかった。 「大丈夫。菫、マジで可愛いから。顔だけは。」 「それって他は可愛くないってこと?!」 「まぁ、強いて言うなら少し根暗っていうか。だから言ったじゃん。少し笑いなさいって。」 それは少し傷つくんだけど。私、そんなに根暗なのかな。鏡を見ると、本当に少し暗そうな自分の顔が映った。翔も私のことを根暗な子だと思っているのかな。少しだけ、不安になった。 約束時間5分前についた私は、空き地できょろきょろと翔の姿を探した。 おかしい。いつもなら私より先にベンチに腰掛けてギターを演奏してるはずの彼の姿が見えなかった。朝寝でもしたのかな。仕方なく、ベンチに積もった雪を払って腰掛け、足をばたばたさせながら彼を待った。 かなり寒い日であるといってた気がしたけれど、意外とそんなに寒くは感じられなかった。 約束の時間が10分ぐらい過ぎ、翔がギターのケースを担いで私のいるベンチの方へ歩いてきた。 寝癖ができて、目の下にはクマができていた。いかにもお疲れのようで、彼は力のない声で挨拶をした。 「遅くなってごめん。待ってた?」 「いいえ、そんなに待ってないよ。それより、どうしたの?疲れそうに見えるけど…」 「ああ、夜更かししちゃってさ。」 彼はギターのケースからノートを一本取り出して言った。 「昨日徹夜して、曲作ってきた。」 今にでも倒れそうなしぐさとともに彼は私にノートを突き出した。そして、ギターを出して膝の上に乗せて弦を軽く弾いた。 「じゃ、演奏してみるね。」 「ま、待って、大丈夫?クマ、ひどいよ?」 私は翔の顔をつかんだ。よく見ると、普段より顔が赤らかになっていた。額に手を乗せたが、冷えた私の手では熱があるのかどうか測れなかった。 「ちょっと顔下げてみて。」 彼が素直に顔をさげると、私は頬を彼の額に当てた。 翔は慌てて私から顔を離した。 「な、なにすんの?」 「なにって、熱は測ってるんだよ。じっとしてて。」 私は彼が暴れないように首に腕を回し熱を測った。生ぬるいのが、やはり熱を出してるようだった。 「熱、あるよ?無理してない?」 「い、いや。大丈夫だ。」 そういったものの、こんな寒い日に外で演奏なんてしたらきっとすぐ体調を壊してしまうのだろう。 「無理しちゃダメ。今日は帰ろう?」 「帰るって、どこに?」 「どこって、翔の家に決まってるでしょう?」 彼を支えながら起こすと、素直に彼は私に身を任せた。いつもよりはるかに冷たい彼の手を両手で握って、息をかけながら手を暖めた。 「さあ、駅まで連れて行ってあげる。」 「…な、菫。」 「うん?」 「うちに、来ないか?」 翔がいきなり私に提案をしてきて、驚いて彼を見つめると彼は申し訳なさそうに私に言った。 「本当に悪いけど、どうやら体調が悪くて…誰もいないから、来ても大丈夫。」 体が痛いというのに、断る理由なんて全くなかった。彼の手をぎゅっと握り、冷たい空気をかきわけて駅へと向かった。
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