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 俺の『期待しなければ、がっがりすることもないだろう』という思いは、単に『美しいもの』と向き合いながら生まれた。一日中頭の中に漂う音楽とか、目を離せない絵画とか、どうやってこんなことを思いついたんだろうと思わせる奇抜な想像力書き上げられた小説とか。 そんなものを接しながら感動という純粋な感情に浸る一方、心の片隅では『自分ももしかしたらこんなものを作れるんじゃないかな』という疑問が沸いてきた。その疑問に答えるために、俺は俺が興味を持てる全てのものに挑戦してみながら青春時代を過ごしていた。 そうやって成長してきた俺が今更ながら気づいてしまったことは、才能が全くないという残酷な事実であった。勿論、よく探してみれば俺だって一つや二つぐらい上手なものがあったかも知れない。 しかし、それはどうしても自分が好きにはなれないものばっかりであった。問題はそれだった。結局、俺は自分が好きなもの意外には』一切手を触れず、そして多分今後も手を出すことはないだろうと思い込んでいた。 そのため、美しいものを作るという夢とはなかなかさよならできずに今まで育ってきた。いつかは、そんなものを作れるという淡い希望を持ったまま。  そんな生き方をしてきたら、いつの間に高校に入学した。人との関係に何の期待を抱かない俺の表情は、どうやらいい印象は残せないようだった。 入学式の日、先に話をかけてくる奴らも、数日経たずに他の子と俺のことなんてどうでもいいように笑いながら話していた。そんな光景を見ていると、俺は友達をつくるために必ず必要な何かを忘れたように感じに包まれた。 一ヶ月、もう一ヶ月が過ぎると、俺はクラスで一番根暗な奴として扱われ、授業前に出席を呼ばれること以外に名前を呼ばれることは指で数えられるほどだった。確かに、寂しくなかったと言えば嘘になる。  ただ、少なくともそんなイメージは無気力な学校生活を送るには最適だと思う。授業中ほとんど頭を突っ込んだまま寝ていても。小説ばっか読んでいても。ご飯を抜きにしてもその誰も俺には無関心でいてくれたおかげで、俺はなんにも期待されない人生を送ることができた。 ただ、そんな生き方は意外と脆くて、少し特別な瞬間をみるだけで大きく揺らいでしまう。  ある日、ぐっすり眠ってしまったせいで目を開けてみると窓の外はもう夕焼け色で満ちていて、伸びた影が教室を横切って『俺』と『教室』を分けていた。 その場面が脳裏にあまりに強く焼きつかれたせいで、俺は太陽が夕焼け色を持ち去って青黒い夜のカーテンが張られるまでぼうっとして窓の外を見つめていた。 夜間の見回りのため廊下を歩く警備員の靴音がどんどん大きくなる頃になってから気を取り戻し鞄を持ち上げた。 少しの小言を言われてから家に帰る途中、おかしいことに涙が出た。その景色があまりにも美しかったからだろうか。もしかしたら、俺はまだこの世界に少しながらも期待を消しきれずに残しているかもしれないと、はじめてそう思った。
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