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 週末の朝、早起きした俺を母が不思議そうな目で見てた。朝飯を食べ、普段の二倍もする時間の間シャワーを浴び、ずっと服のことで悩んでいた。 何を着ればいいんだろうかと悩んだ挙句、一番好きなコートにジーンズで決めた。どうしてもニヤニヤが止まらなくて、鏡の自分はどうしても間抜けにしか見えなかった。 「翔、彼女でもできた?」 母が鏡ばっか見つめてる自分をドアの隙間から覗きながら言った。 「そんなんじゃねぇーよ」 最大限に感情を抑えたつもりだったが、母は疑わしい目で俺を最後まで見つめてはドアを閉めた。 そんな母の視線を避け、俺は約束の時間よりも2時間も早く家を出た。 適当に近くのゲーセンで時間を潰して約束の時間よりも30分も早くせセンターの前に着いた。 15分ぐらい携帯をいじっていたら、息を荒くする声で振り向くと、菫が小走りで走ってきて膝に手をつき息を整えていた。 「ご、ごめん。待ってた?」 膝に手をついたまま俺を見上げながら彼女は言った。 「いや、俺も着いたばかり。」 「そう?よかった。」 彼女はへへっ、と笑い言った。そんな彼女の頬は普段より少し赤くなっていて、心臓がより早く脈打つのが感じられた。 いつも地味な格好の彼女だったけれど、今日はふらふらのスカートにピンク色のコートという溌剌とした姿だったので、つい目が向いてしまう。 彼女も俺みたいに今日を楽しみにしていたんだろうか。だったらいいけどな。 「なんか、変?」 彼女は上目遣いで俺をじっと見ながら言った。 「い、いや。変じゃない。むしろ可愛い。」 はっ、俺は今何を言ったんだろう。心の声がつい漏れ出してしまった。口を塞ごうとしても、もう遅い。よかったのは、彼女の照れてる可愛い顔を見れたというところかな。 「あ、ありがとう…」 彼女はさらに赤くなった顔をマフラーで隠しながら小さい声で言った。 「んじゃ、行こうか。」 「うん」 彼女と肩を並べて駅に向かう途中、俺と彼女は互いの顔を覗っては目が合ってしまい、頬を赤らめて顔を背けたまま足幅を合わせ、駅へと向かった。 堆く積もった雪の上には大きさの違う足跡が並んで刻まれていた。 「翔。どこか生きたいところでもあるの?」 地下鉄に乗り込んだ菫は俺に内緒話をするように耳元で囁いた。少しくすぐったい息が耳の中に入り込んだ。 「と、とりあえず昼飯を済まして、楽器屋に寄るつもりなんだけど。ギターの弦を新しく買わなきゃ。」 「楽器屋?」 彼女の興味を引いたか、真ん丸な瞳がさらに大きくなった。 「面白そう。一度も行ったことないよ。」 「そう?よかった。一度行って見るのも悪くないはずさ。」 そういう瞬間、地下鉄が大きく揺らぐせいで、倒れそうになった菫が俺のコートの袖を掴んだ。バランスを取り直してから彼女はまるで悪いことでもしたかのようにごめん、と顔を下げた。 そして俺から一歩離れ、つま先でたってつりかわを掴んではバランスを取るためにふらついた。そんな彼女の手をぎゅっと握りしめてやると彼女は驚いた顔でこっちをみた。 「えっ?」 「つりかわだぞ。女の子のためのつりかわ。」 その言葉に長い前髪で目を隠しては耳まで赤くなった彼女の姿が愛おしかった。俺の手を握り返しながら、彼女は俺の方へ一歩近づいてきた。 「じ、じゃあ、掴んでもいいかな?その、手…」 「うん。ちゃんとエスコートしてやる。」 まるで握ったら潰れそうな小鳥のような彼女の柔らかい手を握ると、彼女は前髪の間から笑顔で細くなった目を俺に見せた。 「手、とても暖かい。」 彼女の冷たい手と俺の手の間で気持ちのいい温度差が感じられた。彼女の冷えた手を温めるだけで、俺が生まれた理由がもう一つできたような気分さえした。
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