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シルバーホーク
ここはとある喫茶店。カウンターで一人ため息を繰り返す女性アンナ・パティラは、天井で回るシーリングファンを眺めながら、テーブルを拭いている一人の少年に語りかける。
「ねぇ、なんでうちの店には人がこないのかしら……」
その問いかけに対して、拭いている途中だったテーブルを一度中断し、彼女に顔を向ける一人の少年。名はロット・シルバラング。この喫茶店の近くに建てられているチェストリア魔法学園に通う一人の生徒である。
「それは、アンナさんがお客さんを〝選ぶ〟からではないでしょうか?」
「私のせいだって事?」
彼がそう言うのも無理はない。ここのオーナーであるアンナはかなり客を選んでいる。自分が気に入らない客には愛想すら振りまく事もない。それどころか叩き出してしまうのだから、客足も減って当然である。
「昨日も髪の毛が少し金色だからって理由で、叩き出してましたよね?」
「あれは私は悪くないよね? だって、いい歳して金髪って頭おかしくない?」
確かに、昨日現れた客に関して言えば、態度もあまり褒められたものでは無かったし、髪の毛も地毛ではないというのは見てすぐに分かった。
「確かにそうかもしれませんよ? でも、僕しばらくここで使ってもらってますけどお給料貰ってません……」
「だって、お客さんこないんだもん。払いたくても払えないの! それとも、身体で払った方がロット君は嬉しいかな?」
彼女は白のブラウスから自分の谷間をロットに見せた。しかし、ロットはため息をついて、またテーブルを拭き始める。
「冗談はもういいですよ。とにかく、その選び癖を治さないと客足は戻ってきませんよ」
「えー。せっかく見せてあげたのに! 」
頰を膨らませて拗ねるアンナに、またため息が自然と出てしまう。彼女は見た目だけで言えば容姿も良く、女性的な部分もしっかり主張しており、男性には間違いなく声を掛けられる部類だとロットは思う。
しかし、それ以上に残念な彼女の性格が全てを台無しにしてしまっている。そんな彼女が、何故喫茶店をやろうと考えたのか未だに理解に苦しむ瞬間がロットにはあった。
「じゃあ、僕はそろそろ帰りますね」
「はーい。気をつけて帰るんだよ?」
全てのテーブルと椅子を拭き終えて、バケツと布巾を片付けると、ロットは帰り支度を始めた。それをアンナはやる気のなさそうな態勢でカウンターから手を振る。
外に出ると、それは美しい夕日が照らしており、この喫茶店がある街、ロックビルを紅く染め上げていた。
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