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第9話 遥香からの課題
秋も深まり周りの木々も紅葉しだし、日中の気温も寒くなり上着が必要なりだしたある日。今年も後一か月で終わりを迎えようとしたある日、そろそろ期末試験に関する話が出てくるようになった。
俺が一番苦手としていた現代文の授業でのやり取り。
「はい、来月の初めには期末試験ですよ。今回も赤点を取った方にはもれなく冬休み中に追試を受けてもらいますからね」
俺が目を合わせず下を向きながら教科書で顔を隠していると。
「特に星野君。君は夏休みの追試経験があるのでキチンと勉強してくださいね」
少し嫌味を込めて名指ししてきた先生、するとクラスの奴らのクスクスと笑い声が聞こえた。
確かに俺は1学期の期末試験で苦い夏休みを過ごした。だが今回は俺の彼女である遥香が味方に付いてくれていると言う安堵感から安心しきっていた。
俺は休み時間に早速、遥香に頼み込んで現代文の対策をしてもらえるようにお願いした。
遥香は気持ちよく承諾してくれた。
キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り、生徒たちが賑やかに話しながら下校をしだすと俺は、遥香といつもの現代文対策室である図書室へ急行した。
図書室の前へ行くと何時もより静かな雰囲気に包まれていた。俺は早速図書室のドアを開けようとすると先に内側から扉が開かれ、そこには満面の笑みで仁王立ちしている航の姿があった。
俺は航の姿を見てすぐに
「遥香、今日はファミレスで対策しようか? 」
「おい、ちょっと待てよ。何で逃げるんだよ」
「お前がいるとうるさくて集中できないんだよ」
俺が威圧的な態度で航に詰め寄ると目を泳がせながら
「今回はうるさくしねえしキチンと協力するからよ」
航が必死になって頼み込むので俺も遥香も了承した。
俺たちは早速いつもの定位置である図書室の奥にある窓側の4人席に腰かけ、カバンから現代文の教科書とノートを取り出し机に広げた。
まずは漢字の問題から開始、真面目に集中して勉強をしていると周りの生徒がいないせいかいつもより静けさが増し、室内は時計の針と暖房の音だけが聞こえるだけだった。
2人が仲良く真面目に勉強していると航が呆れてきたのか、ノートを1枚破り紙飛行機を織って一人遊びだした。俺はなるべく気にせず勉強に集中するようにした。
さらに時間が過ぎ、紙飛行機にも飽きた航が俺にニヤニヤしながら顔を近づけてきた。
航が生暖かい息を優しく俺の耳たぶに吹きかけてきたので俺はついにキレた。
「お前いい加減にしろ。気持ちわりいんだよ」
「だって静かにしているぞ」
俺たちが言い争っているといつもの様に遥香が俺たちを優しくなだめてくれた。俺は気を取り直して勉強に集中した。
しかしそれから5分後、航が俺の耳たぶにまた生暖かい息を吹きかきたので一瞬ゾクッと全身に鳥肌が立ったが、頑張って無視をしていると今度は耳元で優しくつぶやいた。
「腹減ったからファミレス行こう」
と何度も色気を出した声で呟くので俺が遂にキレようとした時に遥香が
「結構集中したし息抜きに行こうか」
遥香の鶴の一声で俺たちは早速机に広げた勉強道具をカバンにしまい、足早に図書室を後にした。
その後俺たち3人は近くのファミレスに行き4人掛けのボックス席に座った。
夕飯の時間にしてはまだ早かったので特に混みあっておらず俺たちは、デザートとドリンクバーを注文してドリンクを飲みながら談笑した。
1時間ほど経過し店内も夕飯時と重なり、多くの各が来店をしたため席が満席寸前になったので俺たちは切り上げて帰宅することにした。
会計を済ませ外に出ると航が
「とりあえず俺は先に帰るぜ。彼方は2人で温かくして帰れよ。じゃあまた明日な」
航は手を振って足早に帰って行った。奴なりに気を使ってくれたのだ
外はすっかり暗くなり気温も下がりだし寒さに耐えながら、俺たちは手を繋ぎ温め合いながら夜の街を駅の方へ歩いて行った。
この日はいつも遥香が読んでいた本の話題へとなった。
「そういえば前から気になっていたんだが、遥香がいつも読んでいる本って何だったんだ? 」
「空の彼方って言う小説だよ。彼方君は空の彼方って言う小説は知ってる? 」
「…………わりい、知らねえ。」
「え~すごい面白いのに…………」
「ごめんごめん。ちなみにどんな話だか教えてくれよ?」
「ある日、主人公の青年は幼馴染の彼女と結婚するの。しかしある時、主人公が重たい病気になって余命宣告を受けるんだ」
「でもその時、彼女のお腹には赤ちゃんがいたんだけど、我が子の顔を拝めない事を悔やんだ主人公は、あるサイトで聞いた人生で1度だけ自分の人生に関わる人が暮らす時代に渡れるっていう場所の噂を聞いて、山奥にある古びた神社へ向かうの」
「そこで神様に子供が小学生に入学する姿を1度見たいとお願いをして、3日間だけ7年後の世界へタイムスリップさせてもらい、小学生の子供に会うことが出来るってお話なんだ」
特に小説に興味がなかった俺は気にも留めていなかったが、目を輝かせながら俺に話す遥香の姿はとても愛らしく思えた。
そうこうしているといつもの駅前の分かれ道に到着してしまい、俺が遥香と別れて帰宅しようとすると
「彼方君、さっき話した小説、是非読んでみて」
遥香は笑顔で空の彼方と言う小説を俺に差し出した。
「でも俺、読書苦手だし…………」
「ダメだよ。前も言ったけど現代文を克服するには本を読む事が一番なんだよ。今回は前回と違ってまだ時間があるからテスト前までには必ず読んでね」
俺は遥香の強い押しに負けてしまい渋々本を受け取ることにした。
ここで断って笑顔で語っていた遥香を傷つけてしまうと思った俺は、あえて遥香の言うことを聞くことにした。
俺と「空の彼方」との出会いが今後、俺の人生において最大の転機になろうとはこの時誰も知る由がなかった。
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