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第10話 空の彼方①
遥香と別れた俺は、人通りが少ないうっすらと街灯に照らされた細い夜道を冷たい風に吹かれながら足早に自宅へと向かった。俺は遥香からの課題を出されたことで少し憂鬱な気分でいた。
このままあらすじだけを簡単に読んで遥香に返そうか迷っていた。
その時、俺の心の中では読書への抵抗感と遥香へ後ろめたさが葛藤をしていた。そんなことを考えていると自宅へ到着した。
到着するは否や足早に自室へ入り着替えてベッドの上で寛いだ。静寂の中暖房のモーター音だけが聞こえていた。
俺は笑顔で俺の事を想って大切な本を渡してくれた遥香への気持ちを裏切ることに後ろめたさを感じゆっくりと起き上がりカバンに閉まった本を取り出した。
「読書って言うのはどうも性に合わないんだけどチョットだけ読んでみようかな……」
借りた小説はまだ買った時の様に綺麗なペーパーカバーに包まれ、遥香の几帳面さとお気に入りの本への想いが伝わって来た。
俺はなるべく指紋をつけて汚さないように近くにあったウェットティッシュで手を拭きそっとページを開いた。
「空の彼方」 昴と茜の出会い
主人公の橋壁 昴(はしかべ すばる)の幼少期から物語はスタートする。昴は近所でも有名な少しイタズラが好きなわんぱく少年だった。
両親は地元で不動産屋を営んでいた。そんなある日、昴の父親が北海道から引っ越してきた一家にある物件を紹介することとなった。
その時来店したのがヒロインである黒川 茜(くろかわ あかね)の家族だった。茜は両親と3人暮らしで人見知りが激しく内気な性格だ。
初めて店で会った昴は、彼女に初恋をしてしまった。その後は親父さんが紹介した物件を気に入りそこへ住むこととなった。
近所の物件に住んだことと昴の親父さんは、人当たりがよく面倒見がとてもいい人だったので少しずつプライベートでの付き合いが増えてくるようになった。
ある日、昴一家が茜の自宅へ招待されたとき始めて、昴は茜に話しかけることが出来た。
しかし、茜は人見知りが激しくなかなか昴に心を許してくれなかった。そんな昴を見かねて茜の父親がある事を話し出した。
「実を言うと茜は、前の幼稚園で友達から軽い虐めを受けたりしていたんだよ。それで警戒して人見知りが激しくなってね。」
「ごめんね、でもあの子を嫌いにならないで仲良くしてあげてね。茜は友達がいなくていつも寂しく1人で遊んでいるんだ。おまけに知らない土地に来て不安だと思うからさ」
昴はその時、茜の父親が優しい顔でお願いしてきたことが心に残り、子供心ながらも彼女と頑張って仲良くなろうと決意した。
それから数日後、同じ幼稚園に茜が入園してきた。俺は茜の父親に頼み事を守るため一人寂しく教室の奥で遊ぶ茜に近づき積極的に声をかける
「お前、良かったら俺と一緒に遊ばないか? 」
「………… いい1人で遊ぶから平気だよ。」
そう一言ポツリと言い別の場所に行ってしまった。昴は、少し寂しい気分になるがめげずにその後も声をかけ続ける。しかしある日、クラスの悪ガキに茜が虐められる出来事が起きた。
「お前、いつもその汚いぬいぐるみで遊んで気持ちわりい」
悪ガキが茜の大切にしている少し薄汚れが目立つ白いウサギの人形を茜から奪った。
「返してよ。」
茜は泣きながら悪ガキから取り返そうとするが、なかなか取り返すことが出来ず園児でにぎわう教室の隅で座って泣いていた。
すると次の瞬間、昴が大声で茜のぬいぐるみを振り回している悪ガキ背中に勢いよく飛び蹴りを食らわし、うつ伏せに倒された悪ガキの背中にまたがり後頭部を何度も殴り大声で泣き叫ぶ悪ガキから勢いよくぬいぐるみ奪った。
「お前今後、茜の事を虐めたら俺が許さないからな」
昴が泣いている茜に近づき奪い返したぬいぐるみを茜の横にそっと置いてあげた。
「取り返してやったからもう泣くなよ。」
茜は、ぬいぐるみをギュッと抱きかかえ涙声でお礼を言った
「ありがとう…… 」
「もし、今度虐められるようなことがあったらいつでも俺に言えよ。」
茜はぬいぐるみを抱きながら無言で頷いた。昴が立ち去ろうとした時に
「昴君、今度うちに来て一緒に遊ぼう? 」
昴は満面の笑顔で
「ああ、良いぜ。俺もお前と一緒に遊びたかったんだ」
昴が笑顔で答えると茜もシャツの袖で涙を拭きとってニッコリと笑顔を見せた。こうして茜は、昴に心を開くことが出来、茜の父親の願いをかなえてあげることが出来た。
そして2人はほぼ毎日のように遊ぶようになり、茜も楽しい日々を過ごすことが出来るようになった。
俺は何気に開いた本をここまで集中して読んだのは生まれて初めてだった。俺の心の中で続きが気になると言うワクワク感に見舞われていた。
しかし何気にベッドの横にある目覚まし時計を手に取ってみると、既に深夜12時を過ぎていた。辺りはすでに寝静まり外から吹く風による窓のノック音だけが聞こえるだけになった。
俺は急に眠気に襲われ明日の授業にも響く恐れがあったので続きはまた後日、読む事にしてあくびを抑えながら急いで就寝準備をして床に就いた。
そして電気を消しふかふかの毛布をかけ横になって目を閉じるが、暫くは今後の展開が気になり頭の中で勝手に自ら創造ストーリーを描いてしまい、なかなか寝付くことが出来ず何度も寝返りをうちながらやっとの思いで俺は眠りにつくことが出来た
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