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第11話 空の彼方②
ジリリリリリ
俺はスマホのアラームで目が覚め力を振り絞ってベッドから起き上がり、大きなあくびをしながらアラームを切った。
「やべえ、寝不足だ」
このまま横になればすぐに寝落ちしてしまう位の強烈な睡魔と戦いながら急いで制服に着替えた。
着替え終わると俺は洗面台に行き、目を覚ますため水道から流れ出る冷たい水で顔を洗い母親が作ってくれたトーストとハムエッグをさっさと食べ自宅を後にした。
俺はこの日から約15分位乗る電車の中で小説を読む事にした。と言うかどうしても続きが気になってしまい気づいたらカバンの中から本を取り出して読んでいたのだ。
俺は今まで読書を避けていたが、この時初めて読書好きの人はこうして空いた時間を有意義に使って本を読むのだなと思い知らされた。
あんなに拒否をしていた俺がいつしか空の彼方の虜になってしまっており、自然と気づいたら本に手が伸びてしまい生活の一部と化していた。
キーンコーンカーンコーン
この日も無事授業が全て終わり終了のチャイムが鳴り響くと俺はすぐに身支度を済ませ遥香と一緒にいつもの駅前の十字路まで手を繋いで下校した。
「彼方君、どうだった? 」
「この小説マジで面白い。俺生まれて初めて小説を読んでこんなに毎日ワクワクしながら過ごすことが出来るなんて思わなかったぜ」
この時始めて俺は読書の話題で盛り上がることが出来た。この日はもちろん空の彼方の話題が中心だった。
するとあっという間にいつもの駅前の十字路へ到着してしまった。
「じゃあまた明日ね」
俺は笑顔で手を振る遥香を見送った。丁度帰宅ラッシュと重なり家路へ向かう人で混み合う駅に向かい、いつもの様に改札にIC定期をかざしホームへ向かった。
帰りの電車は都心方面に向かうため帰宅の人たちと逆方向の為、朝よりは混んでおらずいつも席に座ることが出来た。俺は車両の奥にある席へ座るとすぐにカバンから本を取り出して、しおりが挟んであるページをめくり続きを読み始めた。
空の彼方の世界
昴と茜はその後、地元の同じ学校に通っていた。幼稚園以降、茜も目立ったいじめを受けることなく楽しい学園生活を送ることが出来た。
そして月日は流れ高校1年の夏休みに地元で開催される花火大会に行った。この日は熱帯夜に見舞われたが沢山の見物客で会場は混み合っていた。
この日、茜は花柄の浴衣を纏い後ろで束ねたきれいな黒髪に入れたかんざしがとてもかわいらしく昴は花火より彼女に見とれていた。
茜は少し頬を赤く染め照れながら
「どうかな? 似合っているかな? 」
「すげえ似合っているぜ」
茜は浴衣姿を誉められた事がうれしくはにかんだ笑顔を見せた。
「ありがとう…… 」
昴もはにかんだ笑顔を見せた。しかし昴はこの日ある重大な決断をしていた。
幼い頃に茜とよく遊んだ思い出の公園に向かい築山の頂上に立ち2人で花火を見物していた
花火大会もそろそろ終盤に差し掛かった時、昴は緊張した面持ちで茜に想いをぶつけた。
「子供の頃に初めてお前が家にやってきた時から俺はお前の事が好きだった」
昴の真剣な表情を見た茜も
「実は私も昴君の事ずっと好きだったんだ。私が虐められていた時も、1人で寂しく遊んでいた時も、ずっといつもそばにいて私の事を想ってくれたもんね」
「何言っているんだ、これからもずっと一緒にお前のそばにいて俺が支えてみせる」
「ありがとう。私も昴君とこれからもずっと居たい」
こうして2人は交際をすることになった。そして月日が流れ高校卒業間際に昴は茜にプロポーズをした。茜も快くOKをした。お互いの両親もとても大喜びをした。
卒業後、2人はすぐに籍を入れ、昴の親父さんの計らいで近くのアパートに住まわせてもらえる事となった。
お互いの両親から助けられながらも昴は、実家の不動屋さんを手伝い茜は保育士を目指しバイトをしながら短大に通うことになった。
それから約半年後のある日、茜に妊娠が発覚した。
「茜本当か? 」
「うん今日病院行ったら妊娠確認できたよ」
茜は病院で撮影したエコー画像を昴に渡すと、昴は泣いて喜んだ。この時2人は幸せの絶頂期だったが、この後2人に立ちはだかる大きな試練が訪れようとは誰も想像していなかった。
俺が胸を高まらせながら読書に集中していると
「間もなく○○駅です」という車内アナウンスが流れ俺の降りる駅に到着したため、俺は急いで小説をカバンにしまい電車を降りた。
「折角いい所だったのにな」
俺は区切りの悪い所で中断されてしまった事で駅前の人込みをかき分けながら急いで自宅へ向かった。この時の俺はハマったゲームの続きを帰ってすぐにしたいと思う小学生と同じ気持ちだった。
俺はその日も夜遅くまで続きを読む事にした。
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