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8月16日
彼女が肉を炒めている間に僕がカレーのルーを買い足しに出かけて、その先でタマネギの品定めをしている彼女のドッペルゲンガーを見かけてから一日がたった。
「それでエミがね……」
「へー。それはヤバい」
彼女の話に相槌をかえす。考えごとをしているので、どうしても返事が上の空になってしまう。というか、昨日から「ヤバい」しか言ってない気がする。それでも会話が成立するんだから「ヤバい」ってヤバい
今の状況を整理しよう。昨日の僕の悩みはは今日の僕の悩みに比べればちっぽけなものだったということが分かった。凡そ半分ほどに。8月16日現在、彼女は四人に増殖している。たぶん。なぜ断言できないのかって? 彼女達は見分けがつかないんだな。会った場所、時間、話してみた感じを総合して判断するしかない。一日で二倍になる等比数列。その方が納得できる気がするし。
そもそも同じ人間が四人も存在しているのに納得もなにもない。
「ちょっと、ちゃんと聴いてるの?」
いけない、そろそろボロが出てきたようだ。
「うん。たしかマリモの断面がどうなっているか気になるんだったよね。それなら今度、北海道に行くときに持って帰ってくるから、それを輪切りにして……」
「は? 何でマリモが出てくるの?」
怒られてしまった。どうやら別の彼女と話していた話題と間違えたようだ。早くこの状況を何とかしなければ。
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