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万年さまを探して
数歩先に視線を落としたまま、肩を揺らしゆるりゆるりと歩くおばば様。その横を僕は静かに付き従った。昼に近づき日差しは強まり、足元に落ちる影も濃くなっていった。
ふいに風が吹き草木を鳴らした。顔を上げ目を閉じたおばば様は、鼻をひくひくとさせている。左右の耳は間断なくいろんな方向へ動いている。
おばば様はその目ではなく、鼻と耳で万年様を探しているように見えた。
僕はといえば、きょろきょろとあたりを見まわし、仲間のおじいさんがいれば万年様ではないかと気になった。おばば様が見落としているのではないのかと。
「おばば様」
「なんじゃ?」おばば様がゆっくりと僕を見た。
「万年様はどんなお姿をしているのでしょうか」
「姿? ふぅむ、なんといえばよいのだろうか、説明はむつかしいがの、まあ、見ればわかる」
「見ればわかるのですか」
「わかる。そこら辺を歩いているものたちとは明らかに違うのじゃ。あれを、威光というのじゃろうか」おばば様は何度もうなづいた。
「いこう、とは何でしょう」
「そうじゃのう。言葉や態度ではなく、そこにおるだけで自然に我らを服従させてしまうような威厳じゃろうかな」
公園にも原っぱにも、涼音さんがよく行くコンビニの駐車場にも、自転車屋さんがなくなってタンポポの葉っぱが生えた空き地にも、人家の塀の上にも万年様の姿はなかった。
「もう、天に昇られたのじゃろうか」
おばば様は、まぶしそうに空を仰ぎ、やがてその横顔は寂しそうに歪んだ。その姿があまりにもかわいそうに思えたから、少し気をそらせてあげたいと僕は思った。
「万年様はどんな力をお持ちなのでしょうか」
「あぁ」おばば様は少し笑った。よかった。
「あたしもその力のすべてを知っているわけではないからのお。まあ、例えばじゃ……破壊をするなら、この町のひとつぐらいはいとも簡単にできるじゃろう。万年様は乱暴者ではない、情の深いお方じゃからあくまでも例えば、じゃがな」
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