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百日紅
万年様の声に、なで肩をキュッと縮めたおばば様は居心地悪そうに目をしばしばさせた。
あれだけの距離で、おばば様の「うんち」呼ばわりが届いたとは思えない。だってひそひそ声だったのだから。これは万年様の聴力の凄さなのだろうか。
「失礼を仕りました。あの……今日は連れがいるのです。このばばでは手に負えない相談事で……それで、あの……万年様のお力を」
おばば様はしどろもどろになった。その口から発するたったの一言で場の雰囲気をガラリと変えてしまうほどの力を持つ、あの千年おばば様が緊張している。
「連れなどとっくに見えておるわ。構わん上がってこい」
僕が見えている? 背中を向けて丸まっていたはずの万年様に、本当に僕の姿が見えたのだろうか。僕はおばば様を見た。おばば様は、よかったのと頷いた。
赤い花を咲かせた木が涼し気な影を作る校門を見上げた。日向はじりじりするほどの暑さになってきた。
──チャトラン、あれはね夏には赤とか白の花が咲くのよ。百日紅っていうの。
いつだか涼音さんが公園で教えてくれた、幹がつるんとした木に違いない。
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