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おばばの冷や水
姿勢を低くして、狙いを定めるようにお尻をフリフリしたおばば様は、これまでの動きとはまったく違う驚異的な勢いで飛んだ。
カシュカシュカシュ!
もう少し、もう少し!
カシュカシュ!
つやつやとした石でできた校門に、どう考えても爪は立たなかった。
あまりの痛々しさに、見て見ぬふりをした僕はものすごく熱心に顔を洗った。
僕たち猫族は、高いところはもちろんうんと低いところから仰向けに落とされても、くるっと反転して着地する能力を持っている。あの高さからまさかお尻から落ちるとは信じがたいことだった。だけど、おばば様の跳躍は目が覚めるほどに美しかった。
「おばば、なにを騒々しくしておるのじゃ」
「あ、いえ」
「年寄りの冷や水か?」
「あ……いえ」
「中に入れ。植込みのところにレンガが積んである」
「万年様、なぜそれを先に」
「やっぱり跳びおったか。つくづく馬鹿じゃの。わしがレンガのことを言う前にばばが勝手に跳んだのだろう? それはわしのせいか?」
「あ、いえ、すべてはばばの責任でござります」
よれよれと小学校の校門を通るおばば様に僕も続いた。植込みに入ると確かにレンガが積まれている。それもいい具合の階段状に。
うんこらしょ。おばば様は小さな声で前足を踏み出した。
おばば様がレンガを伝って上がっていったのを見届けて、僕はもう一度外に出て校門を見上げた。
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