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猫族が人を?
「で、相談事とはなんだ」
万年様がおばば様と僕を交互に見た。近くで見る万年様は、思いもかけぬほどにやさし気な面差しだった。
「このものの飼い主の話なのです」おばば様が口を開いた。
「ふむ」
「助けたいと申しているのです」
「ほぉ、猫族が人を助けたいとな、それはまた珍しい話じゃ。長く生きておるが初めて耳にした」
万年様がじっと僕を見た。あっさりと断られるのか、そんなことはできぬと。
いくら待っても万年様は口を開かない。静寂を埋めるように吹いた風に、百日紅の葉が光と影を揺らし、息が詰まるような時間が過ぎた。やがて万年様はふんと鼻から息を吐いた。
「わかった、聞こう」
万年様は否定しなかった。それも、わかったと言った。僕は逸る気持ちを抑えきれずに話し始めた。
涼音さんの彼氏のこと、それを見た僕の率直な感想、最近の涼音さんの様子。前足に顎を乗せ、まるで眠ったように話を聞いていた万年様が顔を上げた。
「お前の感じ取ったことは己の損得に左右されてはおらぬか?」
「損得? あ、はい、たぶん」いや、絶対。
「その、つくねさんとやらが好きなのだな」
「あ、あの……」間違いは指摘すべきだろうか。けれど、こんなに偉いお方にそれは失礼なのではないだろうか。
おばば様を見たけど、困ったような顔をしただけだった。
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