歯が浮くようなセリフ?

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歯が浮くようなセリフ?

「やたらと()めてくれたでしょ? たとえば、君みたいにショートボブが似合う人見たことないよとか。細いあごが素敵だよとか」私の妄想(もうそう)を置いてけぼりに七夜月の話はまだ続く。 「うん、褒めてくれたかな」ヘアースタイルをほめてくれたことは確かだ。  やたらと、に引っかかるけど、反論するのもおかしい気がしてフラペチーノをすすった。 8fe0c153-2ce6-4a9c-ad72-62668fd3a7b8 「歯が浮くようなセリフは?」 「歯が浮く?」 「君がかつて受けたことのないような称賛(しょうさん)とか」 「どうなんだろう──あぁ、うん。褒めてもらったことがないところをほめてくれたことはある」  たいしたことでもなかったのに、気が利くねと言われた。それは意外な言葉で、すごくうれしかった。  七夜月は(あわれ)れむような眼をした。私が過去に一度も褒められた経験がない女であるかのように。 「君の瞳は」右目をすがめた七夜月は遠くを見るような目をした。「まるで、森の奥深くに湧く(けが)れのない泉のようだ」 「はい?」 「あ、いや、そんなに大げさに耳に手のひら当てなくても」 「なんか、全然センスがないもので」 「はい、すみません。これはあくまで例えだから」七夜月の耳が、ほんのり赤みを帯びたように見えるのは気のせいだろうか。 「君を叱ったことはある?」ふたたびテーブルに肘を乗せて前のめりになった。またもや顔が近いんですけども。 「叱る? うーん、あんまりないかも」  ほらね。つぶやいた七夜月(ななよづき)は椅子の背にもたれた。前後運動の激しい人だ。そしてなんでそこで、あくび?
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