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My name is チャトラン
後ろ足に体重を移動するやいなや、お尻をぐぐっと上げて、前足をこれでもかというぐらいギューッと伸ばす。流れるように前足に体重を移して後ろ足もグイィンと伸ばす。ふわふわと大きなあくびまで加えると、体ばかりか心もほぐれて気持ちがいい。
涼音さんもお風呂の後にこんなことをしている。僕の真似でも始めたのかと思ったらヨガとかいうものらしい。僕ほどではないけど柔らかい体をしている。
涼音さんの香りの残るベッドを降りて、フィカス・プミラにおはようのあいさつをする。プミラは寡黙だけれど、いつも笑顔を絶やさない。
少し開いたサッシから心地のいい風が吹き込み、レースのカーテンがふわりと揺れた。食事はあとにしてもう少しだけ寝よう。陽だまりに寝そべり、前足にあごを乗せて目を閉じる。
カン、カン、カンと、遠く遮断機の音が聞こえてくる。やがて走りすぎる電車の音。あの雨の夜も僕はそれを聞いていた。プルプルと震える、からだと心で。
車の通りすぎる音。ずっと向うからバイクの音。それが遠のくと風にそよぐ庭木の葉擦れの音。駅に近いのに、この辺りはとても静かな住宅地だ。
コツコツと靴音が通り過ぎてゆく。女の人だ。それも若い。涼音さんが帰って来る時もこんな音がする。でも、これは全然違う人だ。涼音さんの歩幅はもっと小さい。
それにしても、このところ気になって仕方のないことがある。いや、心配といったほうがいいだろうか。そう、涼音さんのことだ。
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