My name is チャトラン

1/1
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

My name is チャトラン

 後ろ足に体重を移動するやいなや、お尻をぐぐっと上げて、前足をこれでもかというぐらいギューッと伸ばす。流れるように前足に体重を移して後ろ足もグイィンと伸ばす。ふわふわと大きなあくびまで加えると、体ばかりか心もほぐれて気持ちがいい。  涼音さんもお風呂の後にこんなことをしている。僕の真似でも始めたのかと思ったらヨガとかいうものらしい。僕ほどではないけど柔らかい体をしている。  涼音さんの香りの残るベッドを降りて、フィカス・プミラにおはようのあいさつをする。プミラは寡黙(かもく)だけれど、いつも笑顔を絶やさない。 65181f6e-2dd2-4227-a53f-707809fd0bbc  少し開いたサッシから心地のいい風が吹き込み、レースのカーテンがふわりと揺れた。食事はあとにしてもう少しだけ寝よう。陽だまりに寝そべり、前足にあごを乗せて目を閉じる。  カン、カン、カンと、遠く遮断機(しゃだんき)の音が聞こえてくる。やがて走りすぎる電車の音。あの雨の夜も僕はそれを聞いていた。プルプルと震える、からだと心で。  車の通りすぎる音。ずっと向うからバイクの音。それが遠のくと風にそよぐ庭木の葉擦れの音。駅に近いのに、この辺りはとても静かな住宅地だ。  コツコツと靴音が通り過ぎてゆく。女の人だ。それも若い。涼音さんが帰って来る時もこんな音がする。でも、これは全然違う人だ。涼音さんの歩幅はもっと小さい。  それにしても、このところ気になって仕方のないことがある。いや、心配といったほうがいいだろうか。そう、涼音さんのことだ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!