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そうだ!
涼音さんは毎日ご機嫌だった。ときどき僕の食べ物のグレードが上がったりしたけど、それはあの胡散臭い男のせいだとわかっていたから、ちっともうれしくはなかった。
だけど、公園の紫陽花が咲き始めるころから、涼音さんは元気がなくなっていった。僕を抱いて撫でながら泣いている夜もあった。それもきっと、あいつのせいだ。
にゃご(どうしたの?)
涼音さんは答えてくれない。僕たち猫は人間の言葉が理解できるけど、人間に猫の言葉は通じない。
うつらうつらとしながら、僕に何かできないだろうかと考える。そのときふと浮かんだ姿があった。その佇まいは静かだけど毅然としている。それなのに、どこまでも穏やかな目。そのすがたは形容しがたいほどに神々しい。
ふいと顔を上げる。そうだ千年おばば様に相談してみようか。この世に千年も生きていて、知らぬことなど何もないという尊い猫さまに。
おばば様は、僕のことを覚えているだろうか。涼音さんに拾われる前の、ちっちゃな野良だったころの僕のことを。
思い立ったが吉日。すっくと立ちあがり、プミラに頬を寄せてお留守番を頼むよと告げる。
風に吹かれたプミラがふるふると手を振り、それを尻尾で撫でて、僕のために少し開けてあるサッシから体を滑り出させた。
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