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ところであなた、誰ですか?
「空って青いよね」男はスタバの天井に向けてピッと指先を立てた。
私は頷くでもなく、はぁ、といささか気の抜けた息で応えた。それは当たり前だ。私、このひと知らないんだから。
「雲って白いよね」その指を綿あめでも巻き取るようにくるくると回した。
「空の青って誰が決めたんだろう? 雲が白いって誰が決めたんだと思う?」
不思議な質問だった。なぜその色なのか、ではなく、誰が決めたのかという問いかけに戸惑いを覚えた。空が青い理由なら知ってるけど、誰がと訊かれると答えを探せない。
「神様かな?」
この世に存在するすべての不思議は、神のなせる業で強引に一本背負いだ。
「海が青いのも?」
「かみぃ──さま、だね」
「なんか、投げやりになってる?」
「いや、別に」
「涼音ちゃん。青とか白とか決めたのは人間だよ」
七夜月と名乗った男は、鳶色がかった目で私を見つめて、ふっと頬を緩めた。七夜月というのはハンドルネームで、七月のことを指すらしい。
「で、話を戻そう。どれぐらい付き合ってるの?」
「あの、青とか白とかの話は終わりですか? なんか、釈然としないんですけど」
「そう? うーん。囚われちゃいけないってことかな。当たり前のことを疑ってみる必要もあるってことさ」
なんだかよくわからない。論理のすり替え? 明らかに口先ではぐらかされているような気がする。
「で?」
「四か月ぐらい、かな」テーブルの下で指を折った私は答えた。
ふん、と不機嫌そうに鼻から息を吐き、七夜月はナチュラルショートの後頭部をしゅっしゅっしゅっと妙な動きで掻きながらスタバの天井を見上げた。
「最初はやさしかったでしょ?」視線を戻し、テーブルに肘を乗せて前のめりになった。
「はい」顔が異様に近いんですけども。
「敬語はいらないよ。友だちじゃないか」
友だちではない。ABCマートの中で人違いされただけだ。
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