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万年さまの力
町ひとつを破壊してしまう力とは、いったいどんなものなのだろう。それは想像もつかない話だった。僕は万年様に会うのが怖くなってきた。
とその時、おばば様の鼻が動いた。耳もせわしなく動いた。
「おった!」おばば様が弾んだ声で横を見た。僕もその視線を追った。小学校の前だった。
ぷふ……おばば様が小さく笑った。
「バカでっかい人間のひり出したうんちみたいじゃ」
え? 僕には何も見えない。
「どこにいらっしゃるのですか」
「ほれ」おばば様がしゃくった顎の先に、茶色いものが丸まっている。校門の上だ。
「うんちじゃ」おばば様は、またクスリと笑った。
尊いお方と言ったり、うんちと腐したり。ばば様と万年様の距離感がわからない。
「さて、行くぞ」ばば様は歩き出した。僕もそれに従った。
近づくにつれ、校門は視界の中でせり上がり、万年様の姿は下へ下へと沈んでゆき、やがて見えなくなった。
門の前でおばば様が座った。僕もそれに倣った。
「万年様、ばばにござります」
しばらく待ってみたが声は返ってこない。ぐっすりと眠っているのだろうか。
「万年様、千年おばばにござります」
風が吹き、遠くで小鳥が鳴いた。
「ばば」上から声が降ってきた。
「はい」ばば様はこれでもかというぐらい、猫背をぎゅっと伸ばした。
「わしはウンチではない」
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