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うっきっきーって何ですか?
「うっきっきー久しぶりじゃない!」ノースリーブの二の腕をぽてぽてと叩かれた。おそらくグーで。
それが声の主の癖で、えー、だの、あー、だのと付けなければ話が始まらない人だったとしても、あるいは、それがこの私に対するあだ名の呼びかけだとしても、うっきっきーなどというふざけたなあだ名などもらったことはないし、うっきっきーと付けなければ話し出せない人だとしたら、すでに猿だ。
ビクリと体を引いて振り向くと、ブラックジーンズに白いTシャツ、薄茶色のトラ模様のパーカーを腰に巻いた見知らぬ男が立っていた。
「うわぁっと、ち、違った、ごめんなさい」男はおびえたような顔で飛びすさった。「ま……眉、怖っ!」
うら若き娘をつかまえて眉が怖いなどと、なんてデリカシーのない言葉を口にする人なのだ。そんな眉にさせた責任の所在を、まさか見失っているのか。
しどろもどろの説明によると、どうやら私は、学生時分に友人だった宇津木という女性と間違われたらしい。だけどそんな人なんてどこにも存在しなくて、これはナンパの手段のひとつなのかもしれないけれど。
「うん、やさしかった」過去形にしてしまうのは悔しかったけれど、それは事実として認めざるを得なかった。
しかし、そんな赤の他人と、なんでスタバに来ているのだろう。それに加えて、なんで恋愛相談なんてしているのだろう。まんまと罠にはまったのだろうか。
おぉ神よ、彼氏のいる身でなんてふしだらな私。
手を握ったら浮気? キスしたら浮気?
セックスは、明らかに。
見た目は穏やかに妄想は過激に暴走する。
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