賢者タイムですって?

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賢者タイムですって?

『ごめんなさい、今日は友人たちと会う予定があるの』その約束を恨めしく思ったあの日。 「あぁーそぉ」不機嫌そうな声が電話から聞こえた。 「あ、でも、明日なら」 「誰も明日の話なんてしてないよ」聞こえてないと思ってやったと信じたかった、ちいさな舌打ちひとつを残して電話は切れた。  でも、その後に会った彼はやさしかった。 「この間はごめんね、会いたいのに会えないと思うとなんだか自棄(やけ)気味になっちゃってさ」  そんな彼が、駄々っ子のように見えて愛おしかった。 「会うのは夜が多いでしょ?」 「そうでもないけど」  休日の昼間、彼に呼ばれて部屋に行く。けれど、セックスがすむと「これから大事な用事があるんだ」と服を着始める。そんなときにさえ会おうとしてくれた。私はそう考えていた。 「セックスの後、やさしくないでしょ」  確かに背を向けて寝てしまうことが多くなった。 11bb6fe3-295f-4b3c-bb65-46aa0c571c8e 「男ってさ、射精しちゃうと違う生き物になるんだよ。その瞬間を賢者タイムとかいって、俺はなんでこんな女とセックスしちゃったんだろう、とか後悔したりするときでさ、気だるさや虚無感が続く時間なんだね。そのときはイチャイチャなんてしたくないんだ。ここで注釈が付くよ、心から好きな女の人以外とは、とね」  話が何とも生々しい。 「涼音ちゃん、セックスは愛さ。でも、まったくの別物としても存在しうる。その男の愛の度合いは、セックスの直後ですべてわかる。両目を見開きなさい。痛いのは愛じゃないからね。愛はね、思いもかけないほどに柔らかで暖かいんだ」  七夜月はとても美しくウィンクをした。と思ったらナチュラルショートの後頭部をしゅっしゅっしゅっと、ふたたび妙な動きで掻いた。
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