第二話 月曜日のマザー

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「これからは国際化社会だから」と外国語を仕込まれた。  まぁ、物心ついたら、あんな生活だったから仕込まれている感はなかったけど。多国語が自然に身についた感じで、これはルナさんに感謝している。今でも週一で外国語会話教室に通っている感覚だ。今までは日常会話を学んでいたけど、中学校に上がってからは、もっと難しい文学や古典・流行文化などを学ぶようになった。よりネイティブに近づくように。よりその国に自然と溶け込むように。まるでスパイのようだ。  国際化を目指すなら、英語で十分だし、もっと言えば、アジアの言語よりもフランス語・ドイツ語・イタリア語・スペイン語とかの方がよいのでは? ルナさんに一度、その疑問をぶつけたことがある。 「碧は、国際化を欧米化と混同しているのね。例えば、日本人なのに外国人みたいな名前、クラスメイトにも多いでしょう? それは、国際化の弊害なの。昭和時代はキラキラネームなんてマイノリティだったわ。でも、本当の国際化はその名前を聞いて、母国を連想できることよ。このままじゃ、何十年かしたら、名前だけで日本人だなんてわからなくなる。日本人の女の子に『子』をつけた方が、よっぽど国際化だわ」  だから、欧米の言葉の前にアジアの言葉を教えたいって。でもルナお母さん……説得力ないよ、そのルックスと名前! と心で突っ込みつつ、『兎原ルナ子』という名札を想像して吹きそうになった。 「碧、カタカナでルナ子って想像してたでしょ。漢字表記だったら、月子よ」  エスパーかよ!  お母さん達は皆、なんというか勘が鋭い。ドキッとする。  ボクは彫りが深いエキゾチックな顔だから、アジアの言葉なら、リアルに溶け込めそうな国々の言葉だなと想う。もしかすると、女装をさせられてるのは、ボクを立派なスパイに育て上げる為なのかも知れない。何にしてもコミュニケーション能力があれば、それだけサバイヴの確率が広がる。今想えば、多国語を特に習ったという感覚はなかった。月曜日は色んな言語が家庭内で飛び交っていただけ。だから自然と学べた。  親が子に、日本語を勉強として教える感覚はないだろう。生活の中で自然と身につくのだから。ボクは、たまたま言語が多い家庭で育っただけだ。
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