第二話 月曜日のマザー

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 同級生に『セシウム君』がいたんだ……。  半谷(はんがい)君は、焼きそばで一躍有名になったとある沿岸の町から避難して来た。両親を失い、叔母夫婦の家に引き取られたそうだ。震災から既に数年が経ち小学校五年生の時に、彼の新たな不幸が始まった。 『おさななじみ』というテーマで作文を発表した時だった。それまで誰にも話してなかっただけで、彼は嘘つき呼ばわりされた。多分、聞かれなかったから、わざわざ言わなかったんだと想う。わざわざ想い出したくないことだってある。ボクだって、トラウマで記憶がないんだもの。  彼は両親も幼馴染も津波で失った。幼稚園の送迎バスで津波に遭遇したんだ。目の前で多くの幼馴染が、白く暗い轟音の塊に飲み込まれた。生き残ったわずかな児童達と一人の保母さんとで、道とも住宅地とも見分けのつかない泥濘を歩く。泣きながら歩く。電気もなく、真っ暗な夕方の闇を泣きながら歩く。ようやく辿(たど)り着いた自宅は、見たことのない瓦礫の山だった。当然、両親の姿はなかった。  近くの避難所で眠れぬ夜を明かし、明るくなってようやく惨状に気づいた。自宅から三百M離れた瓦礫の山で両親と体が不自由だったお婆さんの遺体が発見された。その瓦礫は全て彼の家の残骸だった。津波でそこまで流されたのだ。  だから、彼には幼馴染がいない。そのことを作文にまとめ、感動した担任が発表した。元々、震災のショックと方言でコミュニケーションは苦手だったから、いじられキャラだったらしい。  いじめのスタートは、面白半分だったのかも知れない。中二病と表裏一体で、『特別な存在ではない』クラスメイトが、特別な存在の彼を羨んだのかも知れない。
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