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セシウム君。
彼はそうあだ名をつけられた。
近寄るな、汚染されるだろ。
賠償金もらって贅沢に暮らしてるんだろ。
今朝の鼻血はもう止まったのか。
そこからの日々は地獄だった。だから、彼は学区に関係なく通える私立に進学したのだが、クラスメイトにばれてしまった。学区が違っても、世間は狭い。せっかくサラリーマン並みに通学に時間をかけたのに、ばれてしまった。いじめグループの一人が、学外サッカーに所属していたんだけど、そいつとうちの同級生がチームメイトだったんだ。
マウンティング。
スクールカースト。
弱い連中程、順位をつけたがる。順位をつけて、自分より弱い存在を見つけて優越感に浸り、安堵する。そんな奴らは最低だと嘯きながら、傍観者でいるボクもまた最低だ。
なるべく目立たないように暮らしたい。これは珍しくボクとお父さんの意見が一致することだ。
だ・け・ど!
気づけば、ボクはいじめグループの前に立ちはだかっていた。
「ボクも福島から避難してきたんだけど、何かある?」
入学後既に、美少女として一目置かれているボクの行動は意外だったようで、クラスは一瞬ざわめいて静かになった。いじめグループはバツが悪くなったのか、教室から出ていった。
「半谷君も、はっきり嫌だって言いなよ。悪いことしてないんだから」
「そうそう、東京電力使ってるんだから、俺に金払えよ。くらい言ってやりなよ」
調子の良いあい梨が被せてきた。
「君達に僕の何がわがんだよ。ずっといじめられて。殴られて……」
「でも、負けてられないでしょ!」
ネガティブワードを吐き出す半谷君を遮るようにボクは言った。そして
「さすけね、すぐどのっから」と言った。
座ったままの半谷君は、ボクを仰ぎ見て、一瞬の間をおいて、ありがとうと言いながら机に泣き崩れた。その涙はいつもの悔し涙ではなく嬉し涙だった。
「碧、今の何? 不思議の呪文?」
あい梨が興味津々で顔を覗き込む。
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