第二話 月曜日のマザー

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 セシウム君。  彼はそうあだ名をつけられた。  近寄るな、汚染されるだろ。  賠償金もらって贅沢に暮らしてるんだろ。  今朝の鼻血はもう止まったのか。  そこからの日々は地獄だった。だから、彼は学区に関係なく通える私立に進学したのだが、クラスメイトにばれてしまった。学区が違っても、世間は狭い。せっかくサラリーマン並みに通学に時間をかけたのに、ばれてしまった。いじめグループの一人が、学外サッカーに所属していたんだけど、そいつとうちの同級生がチームメイトだったんだ。  マウンティング。  スクールカースト。  弱い連中程、順位をつけたがる。順位をつけて、自分より弱い存在を見つけて優越感に浸り、安堵する。そんな奴らは最低だと(うそぶ)きながら、傍観者でいるボクもまた最低だ。  なるべく目立たないように暮らしたい。これは珍しくボクとお父さんの意見が一致することだ。  だ・け・ど!  気づけば、ボクはいじめグループの前に立ちはだかっていた。 「ボクも福島から避難してきたんだけど、何かある?」  入学後既に、美少女として一目置かれているボクの行動は意外だったようで、クラスは一瞬ざわめいて静かになった。いじめグループはバツが悪くなったのか、教室から出ていった。 「半谷(はんがい)君も、はっきり嫌だって言いなよ。悪いことしてないんだから」 「そうそう、東京電力使ってるんだから、俺に金払えよ。くらい言ってやりなよ」  調子の良いあい梨が被せてきた。 「君達に僕の何がわがんだよ。ずっといじめられて。殴られて……」 「でも、負けてられないでしょ!」  ネガティブワードを吐き出す半谷君を遮るようにボクは言った。そして 「さすけね、すぐどのっから」と言った。  座ったままの半谷君は、ボクを仰ぎ見て、一瞬の間をおいて、ありがとうと言いながら机に泣き崩れた。その涙はいつもの悔し涙ではなく嬉し涙だった。 「碧、今の何? 不思議の呪文?」  あい梨が興味津々で顔を覗き込む。
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