第一話 どうして皆には一人しかお母さんがいないんだろう

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 ボクとお父さんは、月曜日から金曜日まで日替わりでお母さんの家に帰る。月曜日のお母さん、火曜日のお母さん、水曜日のお母さん、木曜日のお母さん、そして金曜日のお母さん。土日はお父さんとホテルや旅館。だから月曜日の朝は通学するのがちょっときつい。  どのお母さんもボクに愛情を注いでくれるから、どのお母さんから生まれたのか、なんて気にしたこともなかった。 「本当に碧ちゃんは可愛いわね。お人形さんみたい」  どのお母さんもボクのルックスを褒めてくれる。長い髪を褒めて、髪を結ってくれるお母さん。小学校四年生から、ボクは髪を伸ばし始めた。  スカートからパンツが覗かないか、心配するお母さん。ボクも普段はデニムだったから、学校指定のスカートは何か落ち着かない。  アイドルにスカウトされたらどうしましょう、と嬉しそうに笑うお母さん。でもお父さんはひっそりと暮らせと言う。  どのお母さんも、決まって言うんだ。 「パパに似なくてよかったね。ママに似て美人でよかったね」  確かにどのお母さんも綺麗だ。ボクはどのお母さんに似たんだろう。皆に似てる気もするが、誰にも似てない気もする。  小学校までは何だかんだ言って、お父さんがいつも送り迎えに来ていた。でも、春から中学校にあがり、さすがにそれはなくなった。……誰かに見られている感覚はあるんだけど。  ところでボクには小学校より前の記憶がない。気づいたら、破天荒なお父さんと日替わりのお母さん達と暮らしていた訳だ。それがボクの日常。
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