磨りガラス

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 その日の夜、深夜2時を迎える頃。私は闇夜に紛れて商店街の入り口に立っていた。  『夕明通り』  ――夕方なのに、明るいのだろうか。  昼間に通った時には何も感じなかったが、こうしてみるとなかなかに不気味。  朽ちたアーチ看板、商店街の奥は暗闇で覆われ、深淵に包まれている。そこから流れてくるひんやりとした空気が、不気味さを際立たせる。 秋とはいえど、まだ昼間は暑い。夜もまだ少し暑さが残っているというのに、ここは薄気味悪さにも似た、肌寒さを感じる。  不動産屋曰く、深夜二時から二時半までの三十分間だけ、商店街に明かり灯り、奥に進むとある不動産屋が営業しているとのことだった。  入れる時と入れない時がある。運良く入れた時には、どんな噂も知っている店主がいる。そんな信じられないような話だが、藁にもすがる思いで訪ねてみることにしたのだった。  このままでは家には帰れない、帰りたくない。  このまま気味が悪いままにして、住み続けることは出来ない。絶対に。  不動産屋の話によると、実際に噂を聞けて、無事に帰ってこれたなら解決まで出来るらしい。  ――必ず話を聞いて、解決して帰ってこよう。平穏な日々を取り返すんだ。 「そんなこと考えて、ここまで来たけど……、はぁーあ。私、何してんだろ。バカバカしい」  私が溜息を吐いたのに合わせるかのように、アーチ看板に明かりが灯る。  「ゆうめいどおり」  読み上げれば、先ほどと変わりはない。だが文字にすると、「幽冥通り」。さっきと漢字が違う。  ――はは。噂は本当だったのね。……それにしても、不気味な色の明かりね。なんで、こんな色なのかしら。  看板の明かりは、桃色に近い赤色をしていた。  ――さすがに不気味すぎる。引き返そうか。  さっきと同じ問答をしている時間はない。 「……」  それに、帰ったところで、気味が悪いあの部屋に戻らなくてはいけないなんて、このまま進んだところで同じことだろう。  進もう。  『ばちん!』 「ひゃぁ」  決心したのと呼応したように、静寂な空気を打ち消すように電気音がほとばしり、商店街に眩しいくらいの明かりが灯った。  ――びっきりしたー。でも、良かった。これなら前に進めそう……って、えぇぇぇ。  安堵したのを見計らったかのようにすぐに光は弱まり、不気味さが漂う薄暗さとなった。  ――なんなのよ。もう、こんな明かりになるなら、最初から明るくする必要ないじゃない。
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