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選別室から出ると、俺はヴェーラに先導されて検査室までの道を歩かされた。
先導されるといっても手を縛られた状態で、散歩に行きたくない犬のように縄のリードで無理矢理引っ張られているだけだ。
しかも、脱走されることを想定しているのか、目隠しまでされた。
選別室を出る前、目隠しのことも「規則だ」とヴェーラは言っていた。
しかし、裸の男が手を縛られて、おまけに目隠しまでされて縄で引っ張られているというこの状況。
冷静に考えると、癖の強い大人の店の光景と変わらないだろう。
「な、何だ!? 転生者か!?」
「あらあら」
「キャッ!」
「ハハッ! 見ろよアイツ!」
「ほう……」
途中ですれ違ったであろう人たちの声が次々と俺の耳に入ってくる。
恥ずかしいなんてものじゃない。
目隠しされていても、みるみる自分の顔が赤くなっていくのが分かる。
誰かとすれ違うたびにヴェーラは無言のままグイッと引っ張った。
たぶん、早く検査室まで連れて行きたいのかもしれない。
でも、早く移動する度に前を隠している布が離れそうになって焦ってしまう。
「止まれ」
俺は急にそう言われ、足の動きを止めた。
ようやく検査室に着いたのか。
実際は数分という時間しかたってないと思うが、羞恥心のせいでかなり長い間歩かされていた気がする。
扉をノックする音が聞こえた後に、その中から女の声で「んー」という雑な返事が返ってきた。
また縄でグイッと引っ張られると、そこで俺の目隠しはようやく外された。
部屋は思っていたより広く、学校の教室2つ分くらいの広さはありそうだ。
全ての壁は岩肌が露出しているが、使いやすいように無理矢理削り取ったような歪な跡が目立つ……ここが検査室か。
理科準備室にあるような液体が入ったビンや、ホルマリンに浸かった生物のような物が一番奥の壁際の棚にギッシリと詰まっている。
それに、左側の壁には高さも幅も俺の身長と同じくらいの長さの正方形の本棚が3つあり、それらを整理している男の横顔が見える。
その男はヴェーラと同じよう、黒いローブとフードを深く被り、マスクも付けていた。
ピンと背筋を伸ばしてテキパキと仕事をしているその姿は、少し神経質な印象を受ける。
余程集中しているせいか、男はこちらを見ていない。
それ意外には、何に使うのか分からないクナイのように尖った鋭い小さな器具、天秤のような物、何かを蒸留するような装置などが複数あるテーブルの上に置いているのが見える。
そんな中に、椅子にお尻を乗せながらテーブルの上で足をクロスしてるいる褐色肌の女がいた。
同じく黒いローブを身に付けてはいるが、マスクは顎の辺りまでだらしなく下げていて、顔が見えている。
しかも自分の太ももの上に分厚い本を広げて読んでいて、全くこちらを見ていない。
恐らく雑な返事をしていたのはこの女だろう。
部屋にはこの2人しかいない。
「転生者だ」
ヴェーラのその言葉に気付いた男が先にこちらを向くと、俺の姿を見るなり目を見開いたまま動きが止まってしまった。
突然裸の男を目の当たりにしたら、これは当然の反応と言えるだろう。
「ちょっと待ってねー」
褐色肌の女は栞を本に挿むと、テーブルの上に置いてあるコップを口に運びながら本を閉じた。
「なんだヴェーラじゃん……んんっ!?」
女は俺を見るなり、口を付けていたコップから水を噴き出した。
「ヴェーラ、アンタそんな趣味あったの!?」
女は口からダラダラと水を垂らしながら、驚愕の表情で俺とヴェーラを交互に見つめていた。
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