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「ふざけるな、エマ」
「冗談だって、冗談! で、何で裸なのこの転生者? まさかコイツの趣味? 気持ち悪いんだけどー」
エマと呼ばれた女は着ているローブの袖で口を拭うと、マスクを付け直しながら汚物を見るような目で俺の顔を見ていた。
これも当然の反応だろう。
この格好ならどんな言い訳をしても誤解される。
「訳ありだ、さっさと検査に取り掛かれ」
「はいはい……っと。マックス、仕事!」
マックスと呼ばれた男は返事をせず、整理していた本を近くのテーブルに置き、こちらに歩いてきた。
俺を怪訝な顔をしながら見つめ、ヴェーラから縄のリードを手渡されている。
なんとなく禁欲的そうな顔立ちをしている。
酒、タバコ、その他の嗜好品は絶対やりません、といった意思が顔からあふれ出ているようだった。
マックスはヴェーラが目のやり場に困っている様子を察したのか、壁に掛けてある予備のローブを俺の腰に巻き付けてくれた。
俺は力強く引っ張られ、転生者が暴れたときの対策だろうか、後ろからヴェーラも同行してくる。
そしてエマはというと、テーブルの上に足を乗せ直して本の続きを読み始めている。
この人は仕事をサボっているのか。
そう思ったが、マックスとヴェーラはそれを咎めることもなく、坦々と奥に突き進む。
「その変態の検査が終わったら呼んでねー」
俺は「変態じゃない」と言い返したかったが、あまり口答えをすると何をされるか分からないので、黙っておくことにした。
検査自体はは健康診断と体力テストが混ざったような感じだった。
身長と体重を計られ、壁に掛けてる大小の図形を答えさせられて視力を計ったり、握力計のようなものを握らされたりした。
俺の横でヴェーラは選別室での尋問内容を次々と報告し、マックスは検査を続けながらもそれを紙に黙々とメモしている。
「訳あり、というのは?」
マックスは俺の手首に指を当てて脈拍を計り始めると、横のヴェーラに話しかけた。
「第2選別室で、選別員2人と召喚士が転生者に殺された」
「それで?」
「転生者は壁を壊して第1選別室まで入ってきた。私達がいた場所だ」
「今日はカールと組んでいたな。お前達なら問題なく対処できただろう?」
「致命傷は与えたが、仕留めそこなった」
ヴェーラは心なしか俯いているように見える。
「転生者が死に際に放った力で、私達は本来死んでいるはずだった。だがコイツが……ユートが前に立ちはだかって、その攻撃を防いだ」
「そうか」
マックスの指が俺の手首から離れると、紙に素早く羽ペンを走らせた。
「至って健康、目立った特徴はない。後はエマの仕事だ」
マックスはそう言うと、俺の顔をチラリと見た。
怪訝そうな表情が少しだけ緩くなった気がした。
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