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洞穴の中に入ると、日が当たらない分外より少し寒かったが、今歩いてきた森と同じく春の匂いが漂っていた。
風通しが良く、皮膚に刺さる寒気と、川の流れる音が反響するのも相まって、妙に心地良く感じる。
「今日は冷えるな……さっさと行くぞ」
俺意外の3人は寒そうに手をこすり合わせたり、顔を強張らせながらローブの袖の中に手を引っ込めて冷えないようにしている。
中でも薄着のアンナは体を震わせていて、随分と寒そうだ。
確かに少しだけ寒いが、震える程ではない。
むしろ体が寒さに対抗しようと、体の奥が熱を帯びている気さえする。
これも俺の特殊な体のせいなのだろうか。
「お前は寒くないのか? 便利な体だな」
「いやはや、ユートの体は気温にも順応するようですね」
「そ、そうかもしれないですね」
そんなぎこちない会話をしながらヴェーラとカールの後をついて行くと、一番遠くに放った光の所で2人は足を止めた。
そして、カールが何やら呪文のような言葉を口にすると、目の前の岩肌がゴリゴリと音を立てて横にスライドしていく。
「『アヴァタ』です。中に入るときは、この言葉を口にしてください。ささ、早く中に入りましょう」
中に入ると、ヴェーラとカールと同じようにローブにマスクをした、大きさ的に男だと思われる人が2人立っていて、俺達を見るなり近づいてきた。
その内の1人は大きいメモ帳のような本を持っていて、それ以外のことは分からない。
ヴェーラはその2人に何やら話しかけ、俺とアンナに指をさした。
「出入の管理です。彼らに名前を伝えて、持ち物検査が済んだら入れます」
カールはそう言い、俺とアンナの背中を軽く押した。
先には検査が終わったであろうヴェーラが腕を組んで待っている。
メモ帳を持った1人に名前を聞かれたので答えると、間をおいて「よし」という声が上がったが、もう1人は俺の足元から頭までゆっくりと見回し、そこではじめて「よし、行っていいぞ」と言った。
カールが言っていた持ち物検査がない。
警察が怪しげな人物にする、凶器や違法なものを所持していないか服の上から探るようなものを想像していたが、一切体には触れられていない。
後ろを向くと、続けてアンナも同じように名前を聞かれ、じっくり観察されてから許可が出た。
「ジロジロ見てくる奴は、お前と同じ転生者だ。どうやら服の上から『見える』らしい。あまり良い気分はしないな」
不思議がっているのを察したのか、ヴェーラが俺の疑問に答えてくれた。
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