エッセイ「転がる石に苔は生えない件について」

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 新聞のコラムを担当したのをきっかけに、終了後も2週間に1度、エッセイを書き続けています。  2019年7月4日にブログに投稿したもの。こちらでも読んでいただきたく、掲載します。 ***  転がる石に苔は生えないということわざがありますね。イギリスでは何度も職を変えたり引っ越しを繰り返す人は成功しないという意味だとか。  対してアメリカでは、積極的に行動する人は生き生きとしているという例え。同じ言葉なのに随分と捉え方が違うと驚いたが、それぞれのお国事情からくるものでもあるだろう。  私の両親は、私の事を飽きっぽい性格だと思っていたようだ。なんでも興味を持つが、少しやってすぐに辞めてしまうからだ。ソフトボール、英会話、お琴に空手……友達がやっているのを見ると楽しそうなのだが、実際やってみると思ったほど面白くない。初めから上手くいくわけはないのだから当然なのだが。だから朗読や放送に打ち込んだ時にはホッとしたそうだ。  現在、マンゴー農家をしている知人もローリングストーンだった。「Aさん、また仕事辞めたってよ」何度かそんな話を耳にした。辞めてもすぐ別の仕事を始めるので、私からすると「凄い」なのだが、一度就職したら定年まで勤め上げるべきという世代からするといい加減に見えるのだろう。そんなAさんが30代で農業大学校に入学した。農業大学校は全寮制。名護の山奥でみっちり2年間農業を学ぶのである。その時すでにAさんは結婚して、子供もいた。2年間の教育課程を終え、マンゴー農家を始めた時に周囲は本気だったんだと感心した。  この件に関してAさんに聞いたことがある。「いろんな仕事をしたのは、世の中を知りたかったから。その上で長く取り組める、効率の良い仕事をしたかった」そうだ。天候に左右され、手をかけても思い通りの収穫に結びつかないこともあるが、Aさんが農業をやめる気配はない。効率だけではないやりがいを見出しているように見える。  私の三日坊主経験も、理解のとっかかりになったりと今になって役立つ事がある。成功してもしなくても行動を起こした価値はある。まずは転がってみるが吉かもしれない。 51c02e3f-0bce-4b98-9f1f-4a09b376ef2f
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