本篇

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本篇

私は売れない小説家である。その頃の時期はとても暑い真夏。当時の私は有名な小説家に憧れを抱き、原稿に執筆をしては投稿しての生活。そして、つい先日に一作目を売ったがそれほど名を知られることもなく人気もでなかった。その後二作目を書いても一作目よりは売れていたがやはりそれほどではない。だから私はその程度で心が折れそうになり諦めようかと考えていた。そんな途方にくれ、自分は町の中を歩いていた。ふとどこかがざわついてる事に気がつき、目をやると人気小説家の本が売られていた、そこには沢山の人がいたが主に若い人の方が多い。そんな私は元から本が好きなため気になって近づいた。少し時間が経ち、小説を買うことができた。少し満足したが町に来ても特に何もしない。するとするならば大体この様な本を買うくらいだ。もうすることが為、私は町を適当に歩いては空をぼんやりと見上げた。空は灰色の雲、太陽は見えず覆われていた。微かな雨の臭いも感じた。雨が降るだろう。早足になるが一粒の雨水が地面に落ちた。最初の一瞬だけ弱い雨だったがそれはすぐに強い雨に変わった。いつの間にか地面はほとんど濡れ、私は急いで土の道を走った。水溜りを踏み、雨に当たり、髪や服は濡れていた。家に着く頃にはずぶ濡れなんだろうか、そう考えていたら丁度雨宿りができる所の下に私と同じ様な着物を来た女性がいた。その着物は濃い青色でまるで露草の花の様だったが濡れていた。近辺には青の紫陽花が咲いていた。このまま雨に当たるのは厭な為、私は少し恥ずかしさを感じながら女性の横に立った。いざ建物の下に立てば雨は当たることはなく。ここから見た景色は少し寂し気な雰囲気を感じた。このまま沈黙と言う静かな時間が過ぎて行く。そう言えば懐に有名な小説家の新作を入れていた事を思い出し懐から取り出すと小説は少し濡れていた。読めないって言う程ではない為、雨が止むまで私は読もうとしていたが一緒に居た女性がこっちを見ていた。女慣れしてない私はすぐに目を逸らして背を向けた。女慣れしてないのは確かだが他に人との会話も苦手だった。無言のまま小説を読んでいたがやはり近くにいる女性が気になってしまう。背を向くのをやめてまた女性の方を見た時には確実に目が合っていた。つい小声で 「すいません」と言ってまた目を逸らしたが女性は笑顔で「大丈夫ですよ」と言った。その声は凛々しい声であった。その女性は社交的なのか段々話しかけて来た。 「私、字は読めませんがその本はなんて言う本なんですか?」 そう私の持っている本に対して指を指していた。特に作者名や作品名は明かさないが私は気まずそうに素直に答えた。 「○○作、○○と言う小説です。」相変わらず私は目を逸らしたままそれは悪い癖だ。 「まあ、そうなんですね」 明るい声で言った後、周りを見ては何かを見つけた様な顔をした。私はそれが気になり首を傾げた。 「あそこ、よく見てください。」女性は指を指し、私はその方を見た。何もない、そう思ったがただ小さいだけと思って眉を顰めて目を細めた。 「露草があります。私、露草の花が好きなんです。」確かに、よく見ると露草があり小さな鮮やかで綺麗な青い花が見えていた。 「確かに、露草の花は良い花です。」 少しでも共感するかの様に言って、その花を見つめた。まあ、すぐに飽きたかの様に目を離して空を見ていたら雲は少し減っており雨は小降りになっていた。私はさほどよく周りを見たりはしないが女性は一気に明るい表情になって私の肩を優しく揺らして来た。一体なんだと思い彼女の顔を見た。 「珍しい物がありますよ。」片手で私の手を引っ張って小雨の降る外に出た。彼女が向けた方向には太陽が見えていた。その太陽の光は美しく。そして虹ができていた。 「あれは虹ですよね?珍しい物ですよ。」笑顔のまま私の方を見ていた。 「確かに、珍しい物ですね。」心が喜びに満ちて私は微笑んだ。虹はそのまま少しずつ消え去って雨も止んだ。晴れたことで私達は分かれ道まで一緒に歩いて別れ、一人で歩いた。今日はとても良い日だ。また彼女に会いたいと思いながら家に着いて原稿を書いたのだった。露草。
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