あの子がいた。

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あの子がいた。

人生終わった、と思った。 まさかいじめっ子と同じ高校になってしまうなんて。 入学式の時は気づかなかった。 式の翌日、体育館で校長先生の話を聞いていた時、前方にいる隣のクラスの子がチラチラこちらを見てくると思ったら───あの子だった。 目が合った瞬間、私はサッと視線を逸らした。 見間違いではないか。 微かな希望を胸に前方を盗み見たが、そこには残酷な現実が待っているだけだった。 少し茶色がかった長い髪、小柄で華奢な体。 間違いない。ウエちゃんだ─── 心臓がせわしく脈打ち始め、校長先生の話が全く耳に入らなくなった。 ショックだった。 せっかく、わざわざ通学に2時間近くもかかる学校を選んだというのに。 暗くつらかった中学時代をリセットして、楽しい高校生活を送ろうと思っていたのに。 終わった……。 私はがっくりと肩を落とした。 クラスは違うが、ウエちゃんはまた私に酷いことをしてくるかもしれない。 それに、周りに言いふらすかもしれない。 あの子、中学でいじめられてたんだよって。 その時、みんながどんな目で私を見るのか、何を思うのか。 想像するだけで、心がずんと重くなった。 体育館の床の、私が立っているところだけが沼に変わり、ずぶずぶと体が沈んでいくような、そんな感じだった。
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