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「あきの料理、美味しいもんな」
「……その人も喜んでくれるよ」
「付き合ってる人とはバイト先で知り合ったのか?」
知り合った……具体的に知り合ったのは我が家だけど……食器を片付ける兄さんを見据えた。やっぱり、話しとくか。
「兄さん俺の付き合ってる人ね、七井さん」
手が止まり、きっと脳に伝達し、理解するまで数秒。
「え?七井?はる?」
視線を合わす。
「そう。はるさん。言いたいことはわかってる。でもはるさんが好きなんだ」
兄さんは天を仰ぎ、額に手を当てた。
「まあ、はるは綺麗だし、いいやつだけど……その大丈夫か?あいつ結構遊んでたみたいだけど」
兄さん、そこ?男ってとこじゃないの?っていうか……やっぱり兄さんも知ってるか。知ってるよね。友達だもんね。みんな一応に怪訝する付き合い方って。どうなの、はるさん。
「まあ、あきがいいなら何も言わない。はるもこっちで落ち着こうと思ってるみたいだし」
「真剣に付き合ってるよ。大丈夫」
「しかし……男か……」
頭をボリボリとかく兄さんもきっと同じこと考えてるよね。
兄弟揃って男が好きだとか。俺より少し背の低い兄さんを肩先に見る。その視線に兄さんが気がつく。
「何、あき?」
「兄さん、頑張って」
長男だし。
「何を?」
「跡継ぎ」
「継がなきゃけないもんなんてないだろ」
そう言った、兄さんは少し複雑そうだった。
「西田、また来たって?」
バイトが終わり、着替えているところに大介さんが入ってきた。改めてはるさんとの事を知ってるんだと居た堪れなくて顔を引きつらせた。
「そんな、顔するなよ〜あきら。俺は感謝してるんだから。どうしようもない弟だけどよろしくな」
いつものようにコーヒーをテーブルに置くと、まあ座れと促した。
「西田のやつ、俺んとこに確認に来たんだよ。あきらとはるが付き合ってるのは本当なのかってね」
その言葉にぞっとした。まだ、諦めていないのだろうか。
「だから、付き合ってるヤツいるからって言っといたから。もしなんかあったら言えよ。しかし、あきらとはるが、ねぇ」
モゾモゾと座り直し、カップに口を付けた。
「まあ、一目惚れでしたから」
コーヒーのいい香りが鼻を擽る。はるさんを初めて見た時を思い出した。ガラス越しの儚げな横顔。一瞬で釘付けになった。あの日からずっと俺の中は、はるさんでいっぱいだ。そんな事を思いながらまた、カップを手にした。
「え?お前も?」
「は?」
「はるも一目惚れだって言ってたから」
初耳だ。確かにそんなことは話したことがない。
「そ、そういう話はしたことないんで」
意外だった。そう言えば一目惚れして先に好きになったと思っていたけど、好きだと言ったのははるさんが先だった。
はるさんが俺に一目惚れ。この言葉を噛み締めて火が付いたように熱くなった。その様子からか大介さんはクスっと笑った。
「お前ら可愛いな。なんか安心したわ。はるのことよろしくな」
「はい。どんなはるさんでも今のはるさんが好きなので」
本当に嬉しそうに目の前のイケメンが微笑んだ。
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