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ダマシザル
とある所に住む農家を営む夫婦。
料理をすることが大好きな夫と旅行することが大好きで、海外にもよく一人で行く妻。
個性あふれる二人は今日も幸せに暮らしていた。
しかし、彼らは最近一つの大きな悩みを抱えていた。
それは彼らが旬の季節になると育て、都市へ出荷している果実が何者かによって食われてしまう事である。
いくら罠を設置しても、相手はとても賢いのか
かかってはくれない。
このことに手を焼いた彼らは近くに住む一人の動物学者に知恵を貸してもらうことにした。
学者はかじられた果実を手にとって見るなり、
「これは、ダマシザルの仕業ですな」
と言った。
「ダマシザル?」
聞いたこともない名前に農家の夫婦は気になり、
夫が学者に尋ねる。
「ええ。食べ口の歯の形からまず間違いありません。ダマシザルというのは猿の仲間ですが他の猿とは異なります。
ヤツらはとても知能が高く、変装の名人であり、
人間にだって容易く変装できます。
この変装の名人であるという特徴からダマシザルと名付けられたんですよ。
これまた厄介なヤツらに畑の果実を狙われてしまいましたな」
学者の言葉に農家の妻は不安になり、尋ねた。
「な、何か策は無いのですか?!」
「うーむ。
ヤツらはさっきも言った通り、とても知能が高い。
仕掛けた罠にかかるといったヘマもなかなかしないでしょうし、残念ながらこれといった対処法は無いのですよ。」
学者が帰った後、途方にくれた夫婦はそのまま仕事を再開した。
打つ手がないなんて、なんて絶望的なんだ。
悔しさと怒りで涙が出てくる。
何も出来ず、ただ果実が食われていくのを眺めるだけだなんて。
農家夫婦はそれからというもの、ダマシザルを捕まえるために罠を増やしたり見張りに立ったりなど、いくつかの努力はした。
だが、罠には掛からず、見張りに立つ日には何故かダマシザルはやってこない。
こちらの見張りのタイミングまで完璧に把握されているらしかった。
なんて賢く、厄介な生き物なんだ。
学者から聞かされていたとはいえ、ここまでとは農家夫婦も思っておらず、ダマシザルに手を焼いていた。
そんなある日、学者が再び農家夫婦の自宅へ訪ねてきた。
妻は丁度友人と旅行に行っていた為、夫が応対する。
「これはこれは先生。
今回はいったいどうなさったのですか?」
お茶を出しながら夫は尋ねた。
「ダマシザルに手を焼いていらっしゃると思ったので、あるものを私が開発し、持ってきたんですよ」
「ほう?あるもの、ですか?」
夫は気になり、再び学者に尋ねた。
「ええ、これを貴方に差し上げます」
そういうとポケットから学者は一つの瓶を取り出しテーブルの上に置いた。
中には何やら透明の液体が入っている。
「これはダマシザルだけに効き目のある無味無臭の毒薬です。人間が舐めてももちろん害はありません。これを果実に全て塗っておけばダマシザルに対する最強の罠になるのと思いますよ」
「な、なんとそれは素晴らしい!
ダマシザルだけに効く毒薬なんて!
これなら毒を塗ったまま出荷しても人には無害な為、罠用の果実が無駄にならなくて済み、そのまま都市に出荷できるというわけですね。
本当にありがとうございます!」
学者が持ってきた素晴らしい発明品に夫は目を輝かせ、彼に感謝した。
これでいつもやりたい放題してる猿どもに痛い目をみさせることができるというものだ。
「これを今すぐ全ての果実に塗るといいでしょう。
では私は帰ります。ダマシザルを全て駆逐出来ること、心から願っていますよ」
そういうと学者は帰っていった。
夫は学者を手を振って見送ると、早速全ての果実にもらった毒を塗りたくった。
ダマシザルめ。
今日の夜もまた畑を荒らしにきてみろ。
お前は毒付きの果実を食べ、死ぬ事になるのだ。
そう思いながら彼は一人で食事を済ませ、明日の結果を期待しながら就寝した。
そして翌日の早朝、早速畑へ向かい、そして一匹の死体を発見する。
それは妻の死体だった。
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