神様がくれた子種

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神様がくれた子種

とある所に子どもがなかなか出来ずに悩む夫婦が住んでいた。 結婚してもう十年、しかし今だに子どもが出来ない。 そんな彼ら夫婦を見かねた神様が彼らにあるものを与えた。 「子どもが出来なくて悩んでいるお前たちにこの種をやろう。 今すぐ地面に埋めて育てなさい。」 「一体この種はなんなのです?」 夫婦は神様から受け取った小さな植物の種らしきものをしげしげと見ながら尋ねた。 「この種は普通の種とは少し違うものでな。 この種を埋め、育てると、果物や野菜ではなく、 人間の子供が実るのだ。」 「人間の子供が…実る?」 夫婦はその言葉に驚きを隠せず、再度尋ねた。 「そうだ。 種を埋め世話をしていくと、実の部分がまるで女性の子宮のように膨らんでいき、その実を破って 赤ん坊が生まれる仕組みとなっているのだ。」 「なんと、それはすごい! 我々にそんな素晴らしい種を与えてくださるなんて本当に神様には感謝致します!」 夫婦は感激のあまり涙を流しながら神へ向かって こうべを垂れた。 「よいよい、頭をあげなさい。 しっかり夫婦仲良くこの種を育てるのだぞ。 最後に言っておくが、くれぐれも水やりを怠ったりまたやりすぎたりするのでは無いぞ? もうこの種をワシは持ってないのでな。」 「もちろんです!大切に育てます!」 その夫婦の回答を聞き、満足した神様は天界へ 帰っていった。 そして残された夫婦は早速種を地面に埋めると、水やりを始めた。 それは焼けるような暑い日でも。 風が吹き荒れる嵐の日でも。 夫婦は毎日種に水をやり続けた。 そして10ヶ月後。 種はみるみるうちに成長し、ついに大きな一本の木となった。 その木から一つの大きな実が垂れ下がり、実の中を外から透かして見ると、沢山の液体と一体の赤ん坊のシルエットが見えた。 もうそろそろだ!もうそろそろ生まれるはずだ! 夫婦は毎日種に水をやり続けながら、赤ん坊が実の中から生まれてくる日を今か今かと待ち続けた。 しかし、一年、二年経てど赤ん坊は生まれて来ない。 何故だ?なぜ生まれてこない? 夫婦は疑問に思いながらも水をやり続けた。 そしてとうとう六年の歳月が経った。 もう、実の中のシルエットは赤ん坊の姿ではなく、すっかり青年の姿となっていた。 どうやら実の中では成長が早いらしい。 しかし、なぜ生まれてこない? そう思う彼らの元へ様子を見に来た神様が現れた。 神様は実の様子を見るなり、夫婦に向かって ゆっくり尋ねた。 「お前たち、どのくらいの頻度で水やりをこの6年間行ってきた?」 「はい、ええと、1日3回を毎日続けましたが?」 その言葉を聞くなり、神様は大激怒した。 「い、1日3回を毎日だと!!? 馬鹿者!!明らかに水のやりすぎではないか! 水をやりすぎてはいけないと言ったのを忘れたのか!?」 「し、しかし、水のやりすぎと、実から赤ん坊が生まれてこない理由にどんな関係があるのです?」 もう青年の姿になってしまった赤ん坊の実を指差しながら夫は尋ねた。 「ハァ、お前たちは何も分かってはおらん。 いいか?赤ん坊の立場からすれば何もしなくても 1日3度、それも毎日食べ物が勝手に与えられるのだぞ?当然実の中に引きこもってしまうに決まっているではないか!! お前たちのせいで、お前たちの息子は六年目にして実の中へ引きこもる、いわゆるニートになってしまったのじゃよ!! 全く、甘やかすのは良いが、限度があるのを最近の親は知らんのか…」 神様はそう青ざめ、俯く夫婦達に向かって嘆いた。 十年経ち、実の中のシルエットが老人の姿になった現在でも息子は出て来る様子がない。 出て来る筈がなかった。
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