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【時計塔の悪魔】
僕の住む村には特に自慢する事も何も無いが、唯一誇れる物があるとすれば、村の中心に曰(いわ)くつきの大きな時計塔がある。
曰(いわ)くつきとは、村には古くからの3つの言い伝え、いわゆる伝説があった。
ひとつ「村の時計塔には動力が無いが、悪魔の子が住み着いており、なぜか動いている」
ふたつ「悪魔の子は誰も見たことがない。それでも、この街を陰ながらずっと守っている」
みっつ「悪魔の真理を突き止めた時、この村は滅びる」
なんとも不思議で少し怖い気もする伝説だが、今日はそれらを口伝している博識なお爺さんに話が聞けた。
「どうして時計塔は動いてるの?」
「悪魔の子が呪(まじな)いをかけているんじゃよ」
「昔からあるのに、どうして悪魔は子供のままなの?」
「呪(のろ)いで己の時間は止まっているからじゃよ」
「どうして真実を知ると滅びるの?」
「……さぁのう。それだけはワシにも分からん。誰かが突き止めるまではな」
「どうして? どうして? どうして? ……」それからも僕の質問は続いた。
疑問だらけのこの村でお爺さんの話はとても魅力的で面白かった。
時間の流れをを忘れるほどに。
そうこうするうち、いつの間にか寝てしまっていたようで、気がつくともう夜明け間近だった。
僕は時間を確認するため、お爺さんの家を出て薄明かりの中、目を細め時計塔を見つめる。
すると、どうした事だろうか。
僕が生まれる前から、ずっと休まず時を刻んでいた筈(はず)の時計塔が微塵も動いていない。
目を擦り、再度見つめてみたが見間違いではない。
やはり動いていないのだ。
僕は再度、博識なお爺さんの家を訪ね、時計塔について何故動いてないのか問い詰めた。
「どうしてだって?」
そのあと、しばらくお爺さんはだまったままだった。
しびれを切らして帰ろうかと思った矢先、お爺さんは口をひらき「……そんなの、決まってるじゃろうが」と。
博識なお爺さんは悲しそうに一言、真実を述べた。
「あの子がいなくなった」
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