第1章 おぎんこぎん

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ある日、学校から帰ったおぎんとこぎんは、 団地の花壇でコスモスを摘んだり ダリアの花びらでアリの行列をトウセンボウしたり オシロイバナの種を潰したりして遊んでいました。 妹のこぎんはトイレに行きたくなったので ひとりで部屋に戻りました。 ドアは鍵がかかっていませんでした。 入ってゆくと、お母さんがトイレのドアを開けっぱなしにして、 背中をこちらに向けて、もくもくと掃除をしているところでした。 こぎんが入ってきた事にちっとも気づかないので、 脅かしてやろうと、こぎんは思いました。 それで、そうっと、うつむいている背中に回ってみると、 お母さんは洗剤の泡だらけになった便器のふちを ゴム手袋をはめた手で丁寧にふき取っているところでした。 その手に持っていたのは、雑巾でも、使い捨てのトイレクリーナーでもなく、おぎんのお気に入りのハンカチタオルでした。 こないだの休みに、お父さんに買ってもらったばかりの 薄い黄色にサクランボの散った、おぎんのかわいいハンカチで お母さんは便器を隅々まで拭き上げ、やっと起き上がりました。 こぎんはびっくりして、さっと、キッチンの壁の陰に隠れました。
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