月(仮名)が輝いている

3/10
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 煙の行方を目で追いながら、俺はそのまま、無自覚のうちに物思いに沈み始めていた。  秋の匂いは、やはり罪深い。香ると、睡眠薬を飲んだ後のように、頭がぼんやりとしてくる。  「ある意味、"魔薬"だな」  呟いてから、俺は煙草の白いディスタンスが短くなっていることに気が付いた。先端に灯る細い火を、岩肌に浮いた夜露に擦って消す。  ついに一服を終えた俺は、不意に寝そべりたくなって、目の先に広がる芝生へ飛び込んだ。  「んぁぁ、気持ちいぃぃ...!」  そして空を見上げて、満天の満月を眺める。じっと、空に浮かんだ黄色い丸を見つめていると、目蓋がだんだん重たくなってくる。  このまま、寝てしまおうかな。  と、少しだけ思ったけれど。  流石にこの状態で寝るのは無防備過ぎではあったので、仕方なしに身を起こして、眠気覚ましにもう一本、追いタバコを口に咥える事にした。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!