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「どうか、されましたか?」
シャインは硬い表情のままつぶやいた。
「今日の訓示は中止にしてくれ」
「えっ?」
ジャーヴィスは目を見開いた。
毎朝行う艦長の訓示は、船内の士気を高めるために必ず行わなければならない。ジャーヴィスの愛読書『エルシーア海軍規定書』にもはっきりと明記されている。
「しかし、訓示は規定書にも定められた、日々の日課で……」
「規定書? ああ、あれはただの指標にすぎない。そんなの律儀に毎日やっている船はうちぐらいだよ。俺が士官候補生で乗っていた船じゃ、二週間に一度しか艦長の訓示はなかった。下手をすると一ヵ月に一度」
「で、ですが」
「じゃ、反対にきくけど、君が今まで乗っていた船ではどうだった?」
シャインは椅子の肘置きに右腕をのせて頬杖をついた。
青緑の瞳を半ば伏せ、優雅に足を組んで濃紺の応接椅子に腰をかけるその姿は、絵になるほど様になっている。
おかしい。
正しい行動をしているのは自分のはずだ。
ジャーヴィスはこめかみにじわりと汗が浮かぶのを感じた。
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