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「……マリエステル艦長ですって?」
若い男もまた驚いたように小さく叫んだ。
叫んだ後でリーザに聞こえただろうか、それをいぶかしむように、右手を上げて口元を押さえている。
――聞こえてるわよ。グラヴェール艦長ったら。
リーザは口元を引きつらせつつ、若い男に黙ったまま小さく頷いてみせた。月影色の淡い金髪を一つの三つ編みにした彼は、リーザの姿に驚きつつも、穏やかな笑みを口元に浮かべて、ホープと同じように頭を下げた。
そこでリーザは再び吹き出しそうになった。
庶民的で田舎の台所という店内の雰囲気のせいか、軍服姿でも華やかな外見をしたシャインは、どことなく別世界から来た人間のように浮いているのだ。
店内は木片に黒いペンキで書きなぐられたメニューが、レンガの壁にずらりと並べられ、香草や腸詰めが天井からいくつも吊り下げられている。
カウンターを隔てた向こう側は厨房で、鍋や料理道具などが所狭しと置かれていた。この店の料理で秀逸なのが、種類豊富な塩辛なのだが、毒々しい赤や黄色をしたそれらの瓶が棚一面に並べられている様は、アルコール漬けにした薬酒のようにもみえて結構不気味だ。
――どうも彼のイメージじゃないのよね。この店は。
どっちかといえば、ホープ船匠の趣味。
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