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「今晩は。マリエステル艦長」
リーザは穏やかなシャインの声で我に返った。
シャインの背後の天井で、ぐるぐると腸詰めの固まりが回っている。
――やっぱり似合わないわ。
リーザは腸詰めから視線を引きはがし無理矢理笑いを噛み殺した。
「今晩は。グラヴェール艦長。へぇー、あなたもこういう店によく来るの?」
リーザはシャインとホープに手招きした。
店内は十人ほどが横一列に並んで座るカウンター席しかない。
今はリーザ一人しか客はいないが。
「いや、今夜はホープさんが誘ってくれたんです」
シャインがそう言うと、ホープがにこにこと頬をほころばせながら後に続いた。
「食通で有名なマリエステル艦長がここにいらっしゃるのが嬉しいのう。この店はワシの孫娘がやっているんでね」
「えっ」
リーザとシャインは顔を見合わせた。
「お二人は海軍の方なんですよね? どうもうちの頑固ジジイがお世話になってます」
カウンターの中から若い女将(本当はまだ19才の娘さん)は輝くような笑顔の後おじぎをすると、気合い一発、板の上に置かれた青魚の頭を切り落した。
「頑固ジジイは余計じゃ、エミリア」
ホープの孫娘――エミリアは慣れた手付きで魚をさばいていく。
「だって、おじいちゃんはいつもいつも船のことばっかり考えていて、この年になるまでロクに私達に会いに来てくれなかったじゃない」
ホープの顔が怒りと気恥ずかしさのせいか、みるみる赤くなった。
「エミリア!」
「まあまあ、ホープ船匠落ち着いて。そちらの家庭の事情はさておき、おすすめの『海鮮焼き』をまずは食べさせて下さい。ねっ?」
シャインがホープの腕をとって彼の怒りをなだめている。
リーザは再び手招きした。
丁度良い。店を出るにはまだ宵の口だから、話し相手が欲しかった所だし。
「こっちへいらっしゃいよ。お二方。一人で飲んでてさみしかったのよ~」
ホープが恨めし気に魚をさばきつづける孫娘を見つめ、ふうっと大きく溜息をついた。
「さ、マリエステル艦長がお呼びじゃよ。グラヴェール艦長」
「あっ、ホープさん」
「若い者は若い者同士がいいじゃろ」
ホープがシャインの腕をとってリーザの隣の席に座らせた。
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