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「お、お邪魔します。マリエステル艦長」
リーザはカウンターに再び頬杖をついて、隣に座ったシャインに話しかけた。
「どうぞ。そんなに遠慮しなくても、一緒にいやーな任務(※第2話)をこなした仲じゃない」
シャインが気遣うように周囲を見回した。
「いや。ひょっとしたらどなたかと約束されてるんじゃないんですか?」
――勘の良い人。
リーザは引きつった口元を隠すように無理矢理笑顔を作った。
「いいのいいのー。気にしないで。ちょっと知り合いと飲んでたんだけど、時間がきたから帰ったのよ、彼」
シャインが思わず目を細めて凝視した。
「彼?」
リーザはシャインの問いを無視して、カウンターで待機している若い女将に声をかけた。
「エミリアさん。私の奢りで二人に食前酒をお願いするわ。グラヴェール艦長はシシリー酒。ホープさんは……」
ホープは気遣い無用といわんばかりに大きく頷いて、エミリアに「いつもの」と注文した。
先程までの怒りはどこへやら。
ホ-プの視線は厨房をひとりで切り盛りする孫娘の姿に釘付けだ。
きっと彼女に会うのは久しぶりなのだろう。ホープは造船所の敷地内に家を建ててそこに住んでいる。しかも齢60才を超えた今も現役で海軍の軍艦を作り続けているので忙しく、家族に会うこともなかなかできないようなのだ。
「シシリー酒、お待たせしました」
シャインはエミリアから淡い紫色の酒が入った、瀟洒な足付きのグラスを受け取った。
――やっぱり、これよね。
店の内装とシャインの雰囲気のずれに今だ慣れないが、酒の選択は間違っていなかったようだ。
そんなリーザの個人的な思惑とは裏腹に、シャインはまだ遠慮しているのか申し訳なさそうに眉をしかめている。
「すみません、マリエステル艦長」
「遠慮しないでって言ったでしょう? それに今は休暇中だからリーザと呼んで。肩書きで呼ばれたら折角の開放感が消えちゃうわ」
リーザは飲みかけの自分の酒のグラスを手にして、ふと失言に気付いた。
「ああ……ごめんなさい。あなたは一仕事終えた後だったわね」
シャインはゆっくりと頭を振り、グラスの酒を一気に干した。
余程喉が乾いていたのだろうか。酒を飲み終えたシャインは大きく息を吐いて、エミリアに二杯目を注文した。
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