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「グラヴェール艦長。いかんな。そんな飲み方をしては旨い酒も味がわからんぞ」
ホープは普段自分が飲んでいる『名酒・頑固一徹』とラベルに書かれた素焼きの酒瓶を脇に置いて、一杯目をちびちびとやっている所だった。
「ほれ、エミリア。艦長にアレを焼いてやってくれ。具はサテンスペルの海老と帆立貝。エーマールの白身も忘れずな」
「わかったわ。で、おじいさんは何にする?」
ホープははや頬を赤くして孫娘ににやりと笑いかけた。
「ワシにも同じものをくれ。そうだ、後、上に卵をのせるのを忘れずにな」
エミリアがカウンターの鉄板の上に海老や白身魚の切身をのせ、それらを塩ベースのタレをからめながら焼いていく。
同時に小麦粉を水で溶いたもの鉄板の上に垂らして広げ、薄い生地にして何枚も焼いていく。
生地に具を巻いて食べるのが通常の食べ方だが、ホープは最初から生地に具をのっけて、その上に卵を落とすのが通の食べ方だと語った。
「『海鮮焼き』ってどんな食べ物か知らなかったけど、素材をたれで絡めて焼いただけなのにとっても美味しいですね」
食べ物を胃に入れて、シシリー酒で体が暖まったのか、シャインの頬は幾分上気している。
「そうよ。私もこのお店でそれを知ったわ。それ以来、ここは私の密かなお気に入りの店」
「……で、今夜はジャーヴィス副長と食事をされたんですね?」
「……!」
リーザは飲みかけていた酒を思わず吹き出しそうになった。
(勿論それは必死で堪えた。淑女として当然のことである)
「あ、リーザさん。黙ってる。さては図星だったかな。これは失礼いたしました」
青緑の瞳を悪戯っぽく細めながら、シャインは悠々とシシリー酒のグラスに唇をつける。
何なのよ。
わざとそう言ってみたくせに。
店に入って来た時とは別人じゃないの――?
リーザは唇をひきつらせながら、ほほほと乾いた笑い声をたてた。
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